がん悪液質とは|無理してでも食べなきゃダメ?

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症状マネジメント
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村上志歩美

緩和ケア認定看護師の村上志歩美です。
看護師としては15年目になり、これまで13,000人を超える患者さんと関わってきました。
緩和ケアの世界でキャリアを積み、順風満帆に思えた看護師人生でしたが、流産を経験して初めて我が子を亡くす痛みを知りました。そして支えてくれた家族や友人の優しさがどんなに人の心を癒やすのかを知りました。
こんな私だからこそ大切な家族を失う人の気持ちがわかりますし、緩和ケアの素晴らしさが伝えられます!
私が持っている知識を余すことなく発信するため、本の執筆や看護学校での講師など精力的に活動中。
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Last Updated on 2023年2月19日 by 村上志歩美

一般的にがんになると痩せていくというイメージを持っている方は多いのではないでしょうか。

がん悪液質という言葉を聞いたことがありますか?

実のところ私は、緩和ケア教育機関に進学するまでろくに勉強してきませんでした。

「この患者さんは悪液質だよね」などという看護師同士の会話を聞いたことがありません。

緩和ケア認定看護師になったあとではじめて、医師が看護師に「いやいや、悪液質だから…」とツッコんでいるところに遭遇しました。

もしかしたら、かつての私のように知らない人もいるかも⁉と思って今日はがん悪液質について勉強してみましょう!

がんの患者さんは痩せている?

一般的に「がんになると最期は痩せ細ってしまう」と思っている方が多いでしょう。

実際に終末期のがん患者さんはたしかに痩せている方が多いと思います。

浮腫でパンパンに腫れている場合もありますよね。

一概にがんだから痩せているとか太っている(浮腫んでいる)とは言えませんが、ほとんどの場合痩せていくというのが正しいでしょう。

以前受けた緩和ケアに関する講習会で「本来人間は、木が枯れていくように痩せて水分を失っていくものだ」と言っている先生がいました。

なんとなくイメージができました。

徐々に脱水というか水分が減っていくという考え方が、人間の一番自然な死の迎え方として私にはしっくり来ました。

がん悪液質とは?

がん悪液質は「通常の栄養サポートでは完全に回復することができず、進行性の機能障害に至る
骨格筋量の持続的な減少(脂肪量減少の有無を問わない)を特徴とする多因子性の症候群」と定義される

悪液質に対するガイドライン(EPCRCガイドライン)

がん悪液質は珍しい症状ではなく、進行がん患者の80%に認められます。

体重減少、食欲不振、化学療法の効果減弱、生存率にも影響を与えるとも言われていますし、がん患者さんの体重減少は程度によって予後を悪化させることもわかっています。

痩せる姿を見ると患者さん自身もショックでしょうし、ご家族も悲しい思いをされる方が多いと思います。

だから痩せていく患者さんに「食べないと弱っちゃうよ!」と必死でご家族が無理に食べさせようとする姿があるんですよね。

がん患者さん自身も「食べたい」とか「食べなくちゃ」という思いを持っているからこそ、ご家族の「食べなくちゃダメ!」という押しつけに近い行動がストレスに感じてしまうこともあるでしょう。

がん患者さんとご家族の関わりを見ていると、食べることを強要されるケースではがん患者さんが「食べないといけないのに食べられないし、そのせいで家族に怒られるのがつらい」場合があるのです。

ちなみに食べられないことだけが痩せる原因ではなく、食べても痩せてしまうのが悪液質です。

食べられずに痩せる飢餓とは区別しておかなければなりません。

がん悪液質は、エネルギーを浪費している状態だと言われています。

がん悪液質の場合、代謝異常であり、骨格筋や脂肪の分解が進みますが合成は減ってしまいますから、食べても痩せてしまうんですよね。

がん悪液質は全身性炎症を背景として、食欲不振、骨格筋減少、肝臓や脂肪組織の代謝変化など複数の原因が関与する

がん悪液質ハンドブック

がん悪液質の3つのステージ分類

悪液質に対するガイドライン(EPCRCガイドライン)によるとがん悪液質は、前悪液質悪液質不可逆的悪液質の3つに分類されています。

不可逆的とは、再び元の状態には戻れないという意味です。

【出展】特定非営利活動法人日本緩和医療学会 終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン(2013年版)

不可逆的悪液質ではPSの低下生命予後という言葉が出てきました。

過去に掲載していますのでリンクを貼っておきます。

がん悪液質ハンドブック

がん悪液質の病態は、食欲の抑制、骨格筋の減少、肝代謝の変化、脂肪の消費に加え、華麗や廃用症候群などの要因があります。

がん悪液質の患者さんに看護師ができること

複雑ことは難しくて覚えられないとしても、がん細胞が発生させるサイトカインが悪さをしている状態だということだけは覚えておきたいですね。

サイトカインが食欲を抑制するだけでなく、筋肉や脂肪を燃焼させてしまう働きがあるため、食べても痩せていくことがあるんです。

これまで「がん悪液質だから仕方ないよね~」といまいち治療ができなかった部分もありますが、2021年にアナモレリンというお薬ががん悪液質に対する世界初の薬剤として承認されました。

ですが、アナモレリンは全てのがん悪液質の患者さんに使用できるわけではないようです。

「非小細胞肺癌、胃癌、膵癌、大腸癌におけるがん悪液質」と決められています。

ちなみにアナモレリンは前悪液質の場合も使用できません。

詳細はアナモレリン塩酸塩錠の添付文書をご確認ください。

がん悪液質の患者さんに対して、私たち看護師には何ができるのでしょうか?

ご家族
ご家族

ご飯はしっかり食べないと痩せ細ってがんに負けちゃうでしょ!

がん患者さんが弱っていく姿をそばで見ているご家族もつらさを感じています。

がん患者さんの食事量低下が、がんの進行や寿命が近いことを感じさせてしまうからでしょう。

私たち看護師は、がん患者さんの気持ちだけでなく、ご家族の気持ちにも寄り添うことが大切です。

  • 患者さん、ご家族の食に対する思いの確認
    • 食べたいけど食べられない気持ちに寄り添う
    • 食べられない焦りや不安の傾聴
    • がん悪液質の説明
  • 患者さんの嗜好品やご家族のサポート体制の確認
    • 「食べられそうなものを食べられるときに食べられるだけ」の精神
    • 病院食を無理に食べるより好みの物を差し入れしてもらう
    • 栄養補助食品を試す

がん患者さんに無理矢理食べさせることが正しいことではありません。

ご家族の気持ちにも配慮しながら、食べたいときに食べたいものを食べたいだけ食べることで十分でしょう。

例えば、冷たいアイスクリームなら食べられそう…という場合もあります。

ご家族の「なんとかして食べてほしい」という気持ちを汲んで、無理をしている患者さんがいるのも事実です。

がん患者さんが悪液質の状態だということは、医療従事者でなければすんなり理解できないかもしれません。

病態を把握している医療従事者が、患者さんとご家族の間に入って、患者さんの負担を減らす援助が必要な場合があります。

不可逆的悪液質になっている場合、「食べないと弱ってしまう」とか「栄養が足りないから元気が出ない」と言って、輸液の量を増やしたがる方がいるかもしれません。

不可逆的悪液質の場合、元の状態に戻れないのだということはしっかりと押さえておいてください。

がん悪液質は、エネルギーを浪費している状態です。

終末期の輸液に関しても検討が必要な場合があります。



がん悪液質を知っているかどうかはとても大事です。

患者さんとご家族は食事に関して対立してしまう場合がありますから、食べられない患者さんの苦しみとともに食べられなくなる患者さんを見ている家族の苦しみにも注目して関わりましょう!

患者さんの食事量、日頃からチェックできていますか?

無理をして食べている患者さんに栄養士さんの介入を進められていますか?

患者さんの食に対する思いを聞けていますか?

明日からの看護に活かしていただけると幸いです。

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