Last Updated on 2023年3月22日 by 村上志歩美
ずっと落ち着きなく歩き回っている患者さんを見かけたことはありませんか?
「落ち着きのない患者さんだな~」と放置しているあなた!
もしかしたら錐体外路症状かもしれませんよ。
看護師国家試験で錐体外路症状という用語を丸暗記しましたが、実際にどのような症状なのか理解しないまま私は看護師になりました。
以前、発達障害があったと思われる患者さんが、1日中病棟内をうろうろしている姿をみたことがあります。
落ち着きのない患者さんだな。ずっとうろうろしてて様子がおかしいな。でも元々のキャラクターもあるし、動き回っている方が気分転換になるんだろうなぁ。
当時、3年目看護師だった私も錐体外路症状について理解が不十分でした。
患者さんのキャラクターだろうと思って、動き回ることが気分転換であり、それが患者さんにとって楽な過ごし方なのだろうと気にとめていませんでした。
これ、看護師としてNGですよね!
今日は錐体外路症状について考えてみたいと思います。
錐体外路症状とは?
錐体外路症状の定義
錐体外路症状という言葉は、看護師であればもちろん一度は耳にしたことがあるはずです。
ですが、一般病棟に勤めていると頻度はそんなに高くないため、実際に症状が顕著に表れている患者さんを看ることはほとんどありません。
国家試験のためだけに覚えた知識は、活用しなければ国家試験を終えると忘れていってしまうものです。
錐体外路症状とは、錐体外路(主に大脳基底核および脳幹の神経核を経由して運動をコントロールする)に関連する神経症状、筋緊張の亢進によるパーキンソン症候群(歩行異常、ふるえなど)や筋緊張の低下による多動状態が見られる症状である。
ナーシング・グラフィカ 成人看護学⑥緩和ケア
私が担当したことがある患者さんに見られた症状としては、
足がむずむずして眠れない。
イライラする!!
じっとしていられない。
座っていられない。
常にイライラしており看護師に言葉を荒げたり、体や足がそわそわ、むずむずするような感じを訴えており、じっとしていられないため病棟内を歩き回っていました。
私たち看護師に知識がなかったため、「お部屋で休みませんか?」と声をかけていました。
無知って怖いですよね。
患者さんは錐体外路症状で寝たくても眠れず、ずっと落ち着かない心と体で休まることなく動き回っていたのです。
錐体外路症状に苦しむ患者さんに「ベッドで休んでください」など失礼極まりないですよね。
錐体外路症状から解放されない限り、ベッドで休むなんてなかなかできません。
では、アカシジアとは?
アカシジア(akathisia)は、錐体外路症状(EPS)による静座不能の症状のことを言う。
Wikipedia
足がむずむずして眠れない。
イライラする!!
じっとしていられない。
座っていられない。
この患者さんはアカシジアのために1日中落ち着きなく動き回っていたのがわかりますね。
なぜアカシジアが起こるのでしょうか?
アカシジアの原因
抗精神病薬、抗うつ薬、制吐薬・胃腸薬などで錐体外路症状が引き起こされることがあります。
緩和ケアの領域でもよく使用する薬剤が原因となるため、私たち看護師は患者さんに投与している薬剤について把握しておかなければなりません。
よく使用される薬剤は、
- 抗精神病薬
- ハロペリドール
- リスペリドン
- アリピプラゾール
- SSRI
- パロキセチン
- フルオキセチン
- フルボキサミン
- 抗うつ薬
- 三還系抗うつ薬、四還系抗うつ薬
- トラゾドン
- ミルナシプラン
- 向精神薬
- バルプロ酸ナトリウム
- ドネペジル
- 制吐剤
- メトクロプラミド
- プロクロルペラジン
- 消化器用剤
- ラニチジン
- ファモチジン
- スルピリド
- ドンペリドン
- メトクロプラミド
- モサプリド
この他にもアカシジアの原因となり得る薬剤は多くあります。
私ががん看護の領域でよく使用してきた薬剤は、ハロペリドール、リスペリドン、メトクロプラミド、プロクロルペラジン、スルピリド、ドンペリドンあたりです。
不眠を訴える患者さんは多いですし、不穏になる患者さんも多いですよね。
そして、がんの治療をしていると吐き気を催す患者さんが多いと思います。
抗がん剤治療やオピオイドによる副作用で嘔気が出現するケースがあるので想像しやすいでしょう。
錐体外路症状は、精神疾患の患者さんに使用する薬剤が原因となることが多いため、つい精神疾患の患者さんに起こりやすい症状と思われがちです。
ですが、がん患者さんも錐体外路症状の原因となり得る薬剤を使用しているケースは多いので、見逃してしまうことがないようにしたいですね!
アカシジアを疑ったら?
患者さんの様子がいつもと違うと気づいたら、そのまま放置せずに主治医に報告しましょう。
夜間の不眠を伴っている場合も多いですし、あまりの症状の苦しみから精神症状が出現したり、自傷へと繋がる可能性もあります。
心と体、どちらがソワソワしますか?
アカシジアの症状が出ている患者さんは、心よりも体の方がそわそわすると感じる場合が多いと言われています。
落ち着きなく徘徊している患者さんがいる場合、患者さんに症状を尋ねてみましょう。
そして、アカシジアの原因となる薬剤を投与していないか調べましょう。
アカシジアの治療としては、原因の薬剤を中止や減量することが基本です。
アカシジアの第一選択治療は、通常はプロプラノロールやビペリデン、プロメタジンであるとされています。
原因薬剤の中止だけでも症状が軽快・消失する場合があります。
足がむずむずして眠れない。
イライラする!!
じっとしていられない。
座っていられない。
この患者さんは、がんの治療中で食欲不振がありました。
食欲不振に対して食欲を増強する目的でスルピリドを定期的に内服していました。
「足がむずむずして動いていないと落ち着かない!」と苛立つ様子が見られ、アカシジアが疑われたためスルピリドは中止となりました。
スルピリドを中止したことで速やかに症状は消失し、他の治療薬は必要ありませんでした。
後日、「あのときは自分がおかしかった」と患者さん自身もアカシジアの症状を不快に感じていたことがわかりました。
私はアカシジアで困っていた患者さんに「お部屋で休みませんか?」などと声をかけていたのが恥ずかしく思います。
症例を見なければわからないことは多いですよね。
まとめ
がん看護、緩和ケアの領域で使用する薬剤では、錐体外路症状(アカシジア)を引き起こす可能性があります。
私たち看護師は、患者さんに使用している薬剤の副作用を把握し、患者さんの症状の変化に気づくことが大切な役割だと思っています。
教科書で学んだ知識だけでは理解が不十分で、症例を数多く見ることでアセスメントの視点を養うことができるようになります。
臨床でよく使うその薬剤が患者さんにかえって不快な症状をもたらしていませんか?
薬剤を投与したらその後の観察までしっかりできるように心がけたいですね。
一人でも多くの看護師さんにアカシジアの理解が深まったら嬉しいです。
コメント