Last Updated on 2022年12月27日 by 村上志歩美
進行がん患者の70%が最期の6週間で呼吸困難を経験しているとも言われています。
がんの種類や病期によってもちろん症状の有無や程度は異なります。
酸素飽和度は正常なのに息苦しいという患者さんがいます。正常な患者さんには何もできることがなくて困ってます。
がん看護、特に呼吸器内科病棟でがん看護をしているとぶち当たるのが「呼吸困難感を訴える患者への対応」です。
酸素飽和度が低下していれば「酸素投与」をする場合が多いと思いますが、酸素飽和度の低下がない場合、みなさんはどのような対応をしていますか?
むしろ、何か対応できていますか?
がんの症状コントロールでは、この呼吸困難への対応は最も難しいことの一つだと思います。
割り切っている看護師さんは、「酸素化に問題がないなら酸素投与は必要ないし、苦しいはずはない」とアセスメントしてしまう場合さえあるかもしれません。
呼吸困難の定義
まず押さえておきたいのが、呼吸困難の定義です。
呼吸困難の定義は「呼吸時の不快な感覚」とされており、主観的な症状です。
これを誤って客観的データのみで判断しようとする看護師が臨床に一定数存在していますよね。
がん性疼痛もそうですが、忘れてはいけないのが患者の症状は体験している患者にしかわからないということです。
つまり、患者が痛いと言えば痛みがあると評価しますし、患者が息苦しいと言えば呼吸困難があると評価します。
これは基礎の基礎ですから、緩和ケアをしようと思うのであれば、絶対に押さえておかなければなりません。
患者の訴えをまるっと信じることから症状アセスメントが始まります。
しっかり区別しておかなければならないのが、呼吸不全とは違うということです。
呼吸不全とは、「酸素分圧(PaO₂)60Torr以下」という客観的な病態を示します。
酸素飽和度や血液ガスのデータだけで呼吸困難がないと判断することはできません。
大事なことなのでもう一度お伝えしますが、呼吸困難とは「呼吸時の不快な感覚」とされており、主観的な症状です。
患者が息苦しいと訴えれば、呼吸困難への対応を考えなくてはなりません。
絶対に客観的データで評価をしないように気をつけましょう。
では、具体的にどのように評価をすればいいのでしょうか?
呼吸困難の評価
呼吸困難は患者の主観的な評価であり、呼吸回数や酸素飽和度の異常として現れない場合があります。
呼吸が苦しくて日常生活でどんなことに困りますか?
具体的に患者がどんな動作で呼吸困難を感じているのか把握することは大切です。
起き上がるときなのか、立つときなのか、歩いているときなのか、それとも何もしていない安静時にも呼吸困難感があるのか、具体的に生活のどこに支障があるのか尋ねてみましょう。
安静にしていれば苦しくないけど、トイレまでの距離を歩くと息苦しいです。
たとえば、トイレまでの移動時の呼吸困難がある場合は、トイレまでは車椅子で護送することも看護計画に取りいれる必要がありますよね。
患者がどの動作を負担なくできて、どの動作は支援が必要なのかを常に考えなければなりません。
呼吸促迫がある場合など、客観的データも必要になることもありますが、まずは患者が息苦しいと感じる動作については患者自身の訴えがなければ評価できません。
また、疼痛評価同様に患者自身に0~10で呼吸困難の程度を尋ねる方法をとると継続評価がしやすいです。
治療を開始したことで呼吸困難が軽減したかどうかの判断も必要となるため、事前に0~10で呼吸困難の程度を数値化してもらう練習をしておくといいですね。
その他、評価する材料はいくつかあります。
①咳、痰など呼吸困難以外の症状の有無
②不安
③既往歴、喫煙歴、家族歴
④呼吸数、酸素飽和度、聴診など身体所見
⑤検査:採血、血液ガス分析、胸部レントゲン、心エコー、胸部CTなど
基本は患者の主観的な評価第一ですが、呼吸不全を伴っていたり、不安が強い場合、治療可能な原因が存在する場合があるため、客観的データも含めて全体像を把握しましょう。
治療可能な原因があれば、予後を考慮した上で慎重に治療方針を決める必要があります。
例えば原疾患に対して化学療法や放射線療法、気道狭窄に対してステント留置、胸水や心嚢液貯留に対してドレナージ、貧血に対して輸血などがあります。
呼吸困難の治療
呼吸困難の治療に対して、まず低酸素血症を合併する場合は酸素投与をしたり、輸液量が多い場合は減量を検討したり、ステロイドの投与や咳・痰への対処について継続して考えていかなければなりません。
患者の主観が大事だとは念を押してお伝えしていますが、決して客観的データが不必要だと言っているわけではありませんので、現行の治療についても考えましょう。
ステロイドが有効な場合がありますが、予後を考慮して投与することが勧められています。
私が緩和ケア病棟で経験した症例に関しては、看取りが近いと考えられ最後の外泊を目指す患者に対してステロイドを投与している事例がありました。
外泊前からステロイドを投与し、外泊中に症状が落ち着いて少しでもいい時間が過ごせるようにと計画された治療です。
ステロイドは倦怠感が軽減することもあるので、呼吸困難や倦怠感、食欲不振がある患者にとっては場合によっては奇跡の薬のように思われることもありますよね。
長期使用による副作用についても考えなければならないので、使用するタイミングは患者の予後や希望に合わせて慎重に検討しましょう。
呼吸困難の治療として臨床でよく使用されるのは、モルヒネではないでしょうか。
がん患者の呼吸困難が軽減すると示されていますし、治療用量であれば呼吸抑制は来さないとされていますよね。
呼吸困難に対してモルヒネを適正に使用した場合、死亡率が上昇したという報告はありませんから、安全に使用できる薬剤と考えてください。
ときに「モルヒネ=末期。死ぬときに使うもの」という偏見を持たれている患者もいますから、医療者が正しく説明して安心して症状緩和ができるよう支援したいですね。
抗不安薬を用いることもあります。
呼吸困難が患者を不安にさせ、不安が呼吸困難を助長する場合があるからです。
心と体は繋がっているため、不安があれば身体症状は増強するし、身体症状があれば不安も増強するという悪循環があることを知っておいてください。
抗不安薬だけを使用するのではなく、モルヒネと併用することで効果が上乗せされることがわかっています。
どうしても呼吸困難という症状にだけ注視しがちですが、不安への対処も必要です。
呼吸困難のケア
患者に何かしたい・・・という気持ちがあるのは看護師も家族も同じだと思います。
薬物療法でできることもありますが、それ以外にもできることがあるのはあまり知られていないかもしれません。
だから私たち看護師は、
酸素飽和度は正常なのに息苦しいという患者さんがいます。正常な患者さんには何もできることがなくて困ってます。
自分にできることがなくて落ち込んだり苦しんだりするんですよね。
誰にでも簡単にできることとしては、『環境を整えること』。
これに尽きるんじゃないかと思います。
患者の楽な体位を確認して、その体勢が保持できるようにクッションを用いてポジショニングをしたり、起座位で過ごせるようギャッチアップをオーバーベッドテーブルを配置したり。
簡単に看護ケアに取りいれられますよね。
労作で呼吸困難が増強する患者に対しては、必要な物がすぐ手に届くよう配置して環境を整えておくことがとても大切です。
不安が強い場合はそばにいてタッチングをするだけでも効果があることがありますよ。
そして最後に、低温であることと気流を感じられることで呼吸困難が軽減するとも言われています。
温度は高いときより少しだけ低いときの方が呼吸苦を感じにくく、風を感じることで呼吸苦が和らぐということを日常生活で体感している私たちですが、病院で働いていると忘れてしまっていませんか?
空調で管理された室温の中にいればよし、というわけではないんですね。
たとえば、うちわを仰いで風を感じることで少し楽になったりすると言うことです。
付き添っているご家族に「うちわの風を優しくかけて差し上げると息苦しさが和らぐ場合があるんですよ」と一言添えるとどうでしょう。
患者に「何もしてあげられない」と感じることは、看護師だけでなくご家族にだってありますよね。
看護師が家族にもできることを提示することで、家族は患者のための役割を果たせますから、看取りの苦痛も和らぐ場合があります。
うちわで長時間仰ぐのが大変ですので、窓を開けて喚起をしたり、扇風機を使用しても問題ありません。
簡単に取りいれることができることから始めてみてはいかがでしょう。
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