Last Updated on 2023年12月1日 by 村上志歩美
デヴィ夫人の終活に関するテレビ番組が放送されたのを視聴された方はどれほどいたでしょう。
いつの間にか”エンディングノート”や”終活”という言葉を日常で聞かれることもでてきましたよね。
今では終活アドバイザーなんて資格までできているくらいです。
それだけ一般の方にとっても”終活”は関心があるテーマなんだろうと思います。
がん患者さんは祖父母や両親をすでに亡くしている場合もあり、看取りの経験がある方も多いですよね。
ご遺族の立場を経験したことがあるからこそ、自分の死に様を考えたりするわけです。
「葬儀屋の手配に困ったな」とか「亡くなったことを知らせる人の連絡先がわからなかったな」といったご遺族の立場での具体的な困りごとを知っているんです。
がんと言われた患者さんに”終活しなくちゃ”と言われたけど、的確にアドバイスができないんですよね。
看護師は患者さんに比べると人生経験が少ない場合もあり、アドバイスができずにやるせない気持ちになることもありますよね!
ですが、一般の方と違うのは私たち医療従事者は目の前で”死”に触れる経験が非常に多いということです。
例えば、夜勤の間に3名の患者さんが亡くなるという経験をしたことがあります。
たった15時間ほどの間に3名の患者さんの人生の終焉に立ち会い、病院を去るその複数名のご遺族を見送ったのです。
それぞれの家族の形がありました。
取り乱す方もいれば、冷静にいる方ももちろんいらっしゃいます。
どうしても私は、終活をしてきたかどうかがご遺族の反応に関わっているように思えてならないときがあります。
最近、アドバンスケアプランニングという考えは少しずつ広まってきたと思います。
ですが、看護師の役割としてはどうでしょう?
自信を持ってアドバンスケアプランニングにおける看護師の役割を果たせていますか?
もしも自信がない方がいたら、ぜひ読み進めてください!
一緒に緩和ケアのエキスパートを目指しましょう!
アドバンスケアプランニングとは?
まず、アドバンスケアプランニング(以下ACP)とは、『今後の医療・療養について患者・家族等と医療従事者があらかじめ話し合う自発的なプロセスのこと。 患者が同意のもと、話し合いの結果が記述され、定期的に見直され、ケアに関わる人々の間で共有されることが望ましい。』とされています。(厚生労働省HPより 調査の結果|厚生労働省 (mhlw.go.jp))
ACPには以下の内容も含みます。
- 患者本人の気がかりや意向
- 患者の価値観や目標
- 病状や予後の理解
- 治療や療養に関する意向や選好、その提供体制
アドバンスケアプランニングという名称を今では『人生会議』という愛称に変更して呼んでいるそう。
芸能人の方も交えて意見交換をしている紹介記事の掲載されていますので、気になる方は厚生労働省のホームページをチェックしてみてくださいね。
ACPは患者さんだけでなく、ご家族も医療者も含めて患者さんの人生を話し合う過程のことです。
この会議の中心は、絶対に患者さんでなければなりません。
いつ自分の意思を伝えられなくなる日が来るかわかりませんから、あらかじめ家族とは話しておくことってとても大事なんです。
例えば、血液のがんでどうしても輸血が必要な状況になった患者さんがいるとします。
消化管出血の非がんの患者さんが下血したから輸血をするのとは訳が違うんですよね。
輸血をしてもがんは治らない。苦しい時間が長引くだけだから輸血は受けない!
輸血はがんの終末期においては、対症療法であって根本の治療ではありません。
患者さんの意思を尊重するためには、貧血が進行して意識レベルが低下して数日で亡くなるというゴールがみえますよね。
ですが、患者さんが意思表示をしていない状況で意識がなくなってしまった場合はどうでしょう。
患者さんの意思の確認ができない場合、キーパーソンが決断を迫られることもあります。
輸血はしたくないって言っていたけど、このまま何もしないのも可哀想。できるなら輸血をしてあげてください!
ご家族も冷静でいられなかったり、十分に患者さんの意思を確認できていなかったり様々なケースがあります。
患者さんが事前に家族や医療者と治療への希望などについて話し合えていなかった場合、患者さんの意図しない治療を受けてもらう可能性もあるんです。
誰のための治療で、誰の人生なのか?
大病を患っているいないに関わらず、普段からご自分の考えをご家族と話しておくことはとてもいいことです。
患者さん自身が意識を保てなくなったときでも、大事なご家族が”患者さんの推定意思”を尊重してくれる希望があるからです!
終末期においては約70%の患者で意思決定が不可能だと言われています(Silveira MJ, NEJM 2011)
人生の終焉を迎えるときに備えて、あらかじめご家族や医療従事者と話し合っておくことの大切さがわかりますよね。
ACPはいつ行うのか?
この患者さんが1年以内に亡くなったら驚きますか?
1年以内?ありえるかも・・・
衝撃的な投げかけですが、この質問で「この患者さんが1年以内に亡くなっても驚かない」場合は、緩和ケアを開始した方がいいと言われています。
緩和ケアを開始する=ACPを行うとほぼ同義だと捉えていいと思います。
ACPはいつ行うのが適切かという点においては、明確な判断はしづらいのが現状です。
時期が早すぎても患者さんの不安を強めてしまったり、遅すぎても意思表示ができなくなっている場合があるからです。
ACPの実践モデルというものもあるのでご紹介しておきます。
- STEP1:対象者が健康なとき、もしくは病気療養中でも状態が安定しているとき
- 代理決定者を選ぶ(キーパーソンなど)
- 価値を話し合う(してほしこと、してほしくないこと、大切にしたいことなど)
- ACPを行う適切な時期を選ぶ(緩和ケアを開始するときなど)
- STEP2:生命の危機がある病気を持ち、人生の最終段階を自分のこととして考える時期
- 治療・ケアの目標を話し合う(痛みなどの苦痛が少なく過ごせるなど)
- 治療・ケアの具体的な内容を話し合う(延命処置、胃瘻増設など)
ACPを行う上で大事なのは、患者さんの気持ちは病状や経過によって変化する可能性があるということを念頭に置いておくことです。
つまり、ACPは一度決めたことであっても覆してかまわないってことです!
医療従事者は「患者さんの意思が変わるかもしれない」と理解した上で、常に患者さんの思いをキャッチしなければなりません。
がん患者さんは、死亡前1~2か月で急速に状態が悪化すると言われていて、予後予測が比較的しやすいとされています。
ACPを行うタイミングは、状態が急速に悪化してしまう前が望ましいですよね!
予後予測についてはこちらの記事をご参照ください▼
ACPのタイミングが難しいのが心不全の患者さんでしょう。
慢性心不全は急激な悪化と改善を繰り返しながら、徐々に悪化していく病態です。
慢性心不全は急激に悪化しても治療によって回復をしますが、前回の発症前の状態までは回復しません。
徐々に悪化していく心不全は、いつ最期のときを迎えるのか判断が非常に難しいものです。
がん患者さんと心不全患者さんの予後の推移を比べると大きく違うのがわかりますよね。
患者さんが望まない場合もあるかもしれませんが、もし患者さんに「してほしいこと、してほしくないこと」など明確なも希望があるのなら確認するタイミングを逃してはいけませんね!
ACPにおける看護師の役割とは?
私が必要だと考えるACPにおける看護師の役割は以下4点です。
- 信頼関係の構築
- ACPを行う必要性を伝える
- ACPを行うメンバーの選定
- ACPのプロセスの確認
①信頼関係の構築
ACPは非常にデリケートな感情を取り扱うことになります。
患者さんは「自分が死ぬこと」を大前提に話し合うわけですから、気持ちの負担も大きいことが予測されます。
患者さんやご家族との関係性の構築ができていないのに土足で踏み込むことで、もしかすると患者さんやご家族を傷つけてしまうかもしれません。
残りの時間が少ない場合は患者さんの意思を確認したくて焦ってしまうかもしれません。
私も予後1週間程度と予測される患者さんが入院してこられたときは「時間がない!」と焦りました。
病院嫌いでがんの検査さえ受けずに自宅で過ごされている方もゼロではないのですから、そんなケースも稀にあります。
看護師としてできることは、まずは信頼関係を構築することが大前提です。
そして、医療従事者の価値観を押しつけて「こうした方がいいですよ」というような提案は控えましょう。
あくまでも、ACPは患者さんを中心としたチームで取り組むものです。
なによりも患者さんの価値観を尊重しましょう。
②ACPを行う必要性を伝える
患者さんによっては、ACPに抵抗感がある方も一定数います。
悲しいことにACPは「自分が死ぬこと」を想定した上で行うことになるからです。
死を受容できない患者さんももちろんいますから、そんなときに「話し合いましょう!」と押しつけられても苦しくなりますよね。
患者さんと信頼関係を築き、折を見て患者さんの思いを少しずつ引き出すことがとても大事です。
患者さんがご遺族の立場を経験したことがあるかどうかも知っておくと尚良いですよね。
父の介護で大変な思いをしてね。家族も遺産で揉めたのよ。だから私は延命してまで生きたくないし、死ぬときには誰に何を遺すかまとめておきたいのよね。
患者さんによっては、親の介護を経験したことがあったり、遺産相続で遺族の関係に亀裂が入った経験をしているかもしれません。
こんな貴重な情報を得たらチャンスだと思ってください。
大変な経験をされたからこそご家族に負担をかけたくないと思っているんですね。ご家族にはしっかりと伝えられましたか?大切なことなので、今度ご家族や主治医も含めて、みんなで話し合ってみませんか?
誘うのなんて実はとても簡単なことだったりします。
患者さんの思いを私たち医療従事者が大事にしたいと思っているという意図を伝えられたらいいですね!
患者さん自身が大切にしていること、してほしいこと、受けたい医療と受けたくない医療、最期はどこで誰と過ごしたいかなど確認したいことはたくさんあります。
患者さんの希望に添った医療やケアを提供するために話し合うことが大切だと伝えましょう。
③ACPを行うメンバーの選定
患者さんにACPの大切さが伝われば、あとは誰と話し合うかを決めなければなりません。
患者さんが自分の意思を誰に伝えたいと思っているのか、もし意識がなくなったとき患者さんの意思を代弁してくれるのは誰なのかを確認しましょう。
もしかするとキーパーソンが代理決定者となる場合もあれば、違う場合もあるかもしれませんね。
いつも近くにいる高齢の夫がキーパーソンで、代理決定者となるのは遠方に暮らす長男である可能性も十分にあります。
患者さんの推定意思を踏まえて代理決定をする負担や決断力、ご家族の関係性も影響するでしょう。
具体的に誰と話し合うのか、誰を代理決定者とするのかを明確にしていないと後々混乱してしまうこともあります。
私たち一人ひとりに気持ちや考えがあるように、患者さんのご家族にもそれぞれの思いがありますから。
ご家族が満場一致とならないケースは残念ながらありますので、あくまでも「患者さんの意思」を中心に考えなければなりませんよね。
ご家族だけでなく、主治医や看護師も同席すること、可能な場合はコメディカルや在宅療養の方向も考えているのならケアマネージャー、訪問看護師、訪問診療医など在宅のメンバーを含めるとさらにいいでしょう。
病院の主治医と在宅医も情報を共有しておかなければ、患者さんの意に添わない医療やケアを提供してしまうこともあります。
地域との連携もとても大切です。
④ACPのプロセスの確認
がん患者さんであれば、様々な病気の時期を過ごします。
病気がわかったときだけでなく、病状が悪化した場合などもあらためて話し合いの場を設けた方がいいでしょう。
状況が変われば考え方が変わることは不思議ではありません。
例えば「がんが治ると期待していたから治療を頑張った」患者さんが「治療は頑張ったけれど治らないことがわかった」とき、今後の過ごし方は当初と異なるでしょう。
その都度、必要な話し合いの場が設けられているのかは確認するのも重要な役割です。
1度話し合って「方針は決定している」と思い込んではいけません!
患者さんの気持ちは揺れ動くものだからです。
本当に今の最新の患者さんの気持ちが反映された治療やケアを受けられているのかを確認しましょう。
もし、患者さんの意思が揺らいだり変わっていることに気づいたら、患者さんや主治医にあらためてACPを提案することをおすすめします。
ACPはあくまでも患者さんのため、そして遺されるご家族のためにするものです。
患者さんの意思を尊重し、適切な治療やケアを受けられるように看護師として果たすべき役割がおわかりいただけたでしょうか。
患者さんを亡くしたあとに「患者さんの意思を確認して尊重できた」とご遺族が思えることで、死別に対する後悔は和らぐものです。
患者さんやご家族、医療従事者にとっても「死」を考えて話し合うことはつらいことかもしれません。
ですが、「患者さんらしく最期まで生きていく」ための支援だと思うと頑張れませんか(^^)?
そう思っていただけると幸いです。
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