Last Updated on 2023年2月19日 by 村上志歩美
がん看護をしていると嫌でも看取りの経験をすることになりますよね。
私がかつて転職を考えたのも死別を繰り返したからというのが大きな原因です。
看護師として、冷静でなければならないと思いながらも、大切な患者さんを失う存在はつらいものです。
人の死に慣れたくない私にとっては何度体験してもつらいものでした。
同期とも「患者さんの死に慣れなくてつらい」と話したり「患者さんの死に慣れるような自分にはなりたくない」と話していました。
看護師にとっては、病棟で何度も経験する患者さんの死ですが、患者さんやそのご家族にとってはたった一度の死の体験だということは忘れてはいけません。
喪失・悲嘆・死別とは
喪失(Loss)とは、所有していたものや愛着を抱いていたものを奪われたり手放すことです。
人生は喪失の連続だとさえ言われています。
悲嘆(Grief)とは、喪失に対する様々な心理的・身体的症状を含む、情動的反応のことです。
喪失による悲しみを乗り越えるまでの心理的プロセスを考えると想像しやすいかもしれませんね。
死別(Bereavement)とは、読んで字のごとく死に別れることです。
死によって大切な人を亡くすという経験をした個人の客観的状況とも言われています。
患者の死によって家族、友人・知人、同僚だけでなく医療・ケアスタッフも悲嘆や死別を経験します。
私が死んだら夫があとを追わないか心配。妻が亡くなったら夫もすぐ亡くなるなんて話もよく聞きますよね。
患者が亡くなったあとに家族が続いて亡くなるケースも実際にありますよね。
死別が遺族の健康を阻害するリスク要因となりうることがわかっています。
具体的には、死亡率の上昇したり罹患率が上昇したり、自殺リスクが上昇することだってあるんです。
遺族全員が死別を乗り越えられているわけではないということを私たち看護師は知っていなければなりません。
悲嘆のアセスメント
悲嘆には、通常の悲嘆の他に予期悲嘆と複雑性悲嘆があるのをご存じでしょうか?
通常の悲嘆は、喪失によって引き起こされる気分、行動、反応で誰でも経験する正常な反応です。
生理的・身体的反応 | 食欲不振、睡眠障害、活力の喪失や消耗、身体愁訴、故人の症状に類似した身体愁訴、 病期への罹りやすさなど |
感情的反応 | 抑うつ、絶望、悲しみ、落胆、苦悩、不安、恐怖、罪悪感、怒り、苛立ち、孤独感、 慕情、ショック、無感覚など |
認知的反応 | 故人を想うことへの没頭、故人の現存感、抑圧、否認、自尊心の低下、自己非難、 無力感、絶望感、非現実感、集中力の低下など |
行動的反応 | 動揺、緊張、落ち着かない、疲労、過活動、探索行動、涙を流す、泣き叫ぶ、社会的引きこもりなど |
予期悲嘆とは、喪失が現実となる以前に起こる悲嘆です。
予期悲嘆に関しては、家族だけでなく患者本人も経験することがあります。
ちなみに勘違いしないでいただきたいのですが、予期悲嘆を経験したからといって死別後の悲嘆が軽減されることはありません!
複雑性悲嘆とは、死別後に重い精神症状や社会的機能の低下を引き起こし、専門的治療が必要な悲嘆のことをいいます。
悲嘆という言葉は良く使いますが、「複雑性悲嘆」は知らない看護師さんも多いと思います。
複雑性悲嘆は6ヵ月以上経ても強度に症状が継続しており、日常生活に支障を来してしまうのです。
複雑性悲嘆は非常に厄介です。
複雑性悲嘆を引き起こす危険要因としては、死の状況、故人との関係性、悲嘆当事者の特性、社会的要因があるとされています。
死の状況は、例えば突然死、事故死、自殺、殺人などである日突然別れが来た場合であることが多いです。
がん患者さんの場合はいつか別れが来ると心の準備ができると考えられてしまうかもしれません。
がんだとわかっていたとしても、「まだ今すぐどうこうなることではない」と受け止めていた場合は、それも遺族にとっては突然死と同じ状況になります。
故人との「関係性」は、故人との深い愛着関係、公認されない関係などがあると言われています。
悲嘆当事者の「特性」は、過去の未解決な悲嘆や精神疾患など元々悲嘆当事者が抱えていた問題が関わってくることがあるとされています。
社会的要因としては、経済的困窮や孤立化などがあります。
では、複雑性悲嘆の反応にはどんなものがあるのでしょうか。
複雑性悲嘆には、重度の孤立、暴力的行動、自殺企図、仕事中毒、重度もしくは長期のうつ、喪失を認められないといった反応があります。
私の知人も息子を突然亡くしてから仕事に行けずに引きこもった方がいます。要因は突然死だったことや長男で愛情深く育ててきたという点がありました。10年以上経過しても泣いて過ごしてるのです。それだけ複雑性悲嘆から抜け出すのは難しいんですよね。
以前は悲嘆は、段階を踏んで受容していくものと考えられてました。
しかし、人それぞれ回復までのプロセスは異なるということがわかっています。
最近は誰にでも共通する悲嘆のプロセスはないと考えられており、死別を体験した人それぞれの悲嘆のプロセスを重視することが大切だと言われています。
そして、悲嘆のプロセスに終わりがないとも考えられており、大切な人の死を受け入れ、故人のいない生活に適応することが目標にされます。
悲嘆をアセスメントするには、悲嘆の種類や反応、悲嘆のプロセス、生活や健康状態をしっかりと把握しましょう。
悲嘆・死別ケアの実際
がん看護をしている看護師さんであれば、今後患者に起こりうる症状の予測ができるケースは大いにありますよね。
家族に心の準備をするためにも情報提供をしておくことは大切です。
そして、その際には家族の理解度を確認しておかなければなりません。
落ち着いて理解できているように見えても、実施は理解できていなくて患者を突然失ったように感じてしまうこともあるのです。
また、患者が生きている間に適切なケアが提供されていると感じられるとご家族の心も穏やかになる場合が多いでしょう。
死別後には、丁寧なエンゼルケアを行い、患者との別れの場面を可能な限りいい思い出にして残せるかどうかも看護師の力の見せ所です。
私が自分の家族との死別で印象に残っているのは、手のぬくもりを感じられたことと穏やかな表情でお別れできたことです。
たとえそれまでの闘病生活で苦しんだ事実があったとしても、死のその瞬間が穏やかなものであったり、病院を離れるときにその人らしく綺麗な表情や装いであったことは、死別を少なからず肯定的に捉えさせてくれると思っています。
また、家族によっては死別後に葬儀などの手配についての説明や支援を必要とされる場合もあります。
悲嘆は誰でも経験することであることはご家族にも伝えておきたいですね。
喪主を務める遺族など「私がこんなに悲しんでいてはいけない」と自身を奮い立たせている可能性だってありますから。
誰だってつらいし悲しんでいいし、それが正常な反応なんだと伝えてあげてください。
特に複雑性悲嘆に陥る可能性が高いと考えられる遺族に対しては、そのまま自宅に帰すのは心配です。
精神科医など専門家がいることを紹介しておくことも大切です。
私は患者と家族の依存性が強く、予期悲嘆でお互いにぼろぼろに泣いていた患者夫婦を看たことがあります。
死別後、葬儀を終えてしばらく経過した頃に、遺族に電話連絡をして生活の状況を確認したことがあります。
しっかりと食事が摂れているか、睡眠がとれているか、日常生活を送れているのか確認して、必要であれば来院を勧めました。
遺族にとっては、生前患者が過ごした場所で患者を看ていた看護師と思い出を語り合うことが悲嘆からの回復に役立つとも言われています。
長年連れ添った夫婦が、患者に先立たれて独居になってしまった場合などは、こちらの配慮が大切です。
遺族会なども知らせておくことが有効ですので、当該施設や近隣のがんのピアサポートなど情報提供をしておくといいでしょう。
看護師自身の悲嘆のケア
援助者である看護師も、患者との死別を経験するため複雑性悲嘆に陥りやすいとされています。
精一杯ケアしてきた経験があるからこそ、心残りや無力感でつらくなることはりますよね。
私たち看護師も自分の心のケアをしなければなりません。
それは、看護師個人で取り組むよりチームで取り組んだ方がいいでしょう。
デスケースカンファレンスも有効です。
自分の心のケアができていないと、人のケアはできません。
まずは私たち看護師が自分を大切にしましょうね。
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