Last Updated on 2023年2月19日 by 村上志歩美
看護師の仕事は、元気になった患者さんと喜び合ったり、死亡退院する患者さんを悲しみながら送り出したりと1日のうちで感情がジェットコースターのように上がったり落っこちたりしますよね。
皆さんは、『感情労働』という言葉をご存じでしょうか?
農業など積極的に身体を使って働く肉体労働は聞き馴染みがある方も多いと思います。その肉体労働と対になるデスクワークのような主に頭を使って働く頭脳労働も知られていますよね。肉体労働でも頭は使うし、頭脳労働だって身体を使う部分はありますよね。
では一体、感情労働とはどんなお仕事なのでしょう?
今回、参考にしたのはこちら▼
アーリー・ホックシールド氏というアメリカの社会学者が提唱された働き方のスタイルです。
この記事を読むと・・・看護師の仕事が感情労働だと言われる理由、表層演技や深層演技が求められる職業であることがわかります。仕事熱心な人が陥りやすいと言われる燃え尽き症候群について知り、その予防方法がわかります!自分の好きな看護の道を燃え尽きることなく続けられるように、自分自身の感情も大切に取り扱えるようになりましょう。
感情労働とは?
感情労働は、自分の感情を抑圧(コントロール)して
顧客(患者)満足に尽くす仕事のことをいいます。
笑顔を求められたり、人を相手にする仕事ですね。
感情労働とは、自分の感情を制御し、相手の感情に合わせて対価を得る労働のことです。
自分の感情を抑圧して患者のケアや診療の補助をすることで報酬を得ています。接客業や営業職、コールセンターなどのカスタマーサポートなども医療従事者と同様に感情労働だと言われています。
顧客(もしくは患者)に気持ちいいサービス(ケア)を受けてもらい、満足してもらうことで報酬を得るわけですから、当然、顧客(もしくは患者)の感情に触れるし、自分の感情をコントロールしなければなりません。
身体を使うと肉体が疲れるのと同じく、感情を扱うのにも沢山のエネルギーを使うため、心が疲れてしまいます。
例えば、患者さんから理不尽な怒りを看護師にぶつけられたとしても、こちらも怒ってを言い返して大げんか・・・なんてあっていいわけがありませんよね。腹が立ったり悲しかったりしても、冷静に振る舞うことが求められます。
私たち看護師は、どんなに腹が立とうが悲しかろうが、不機嫌を表情や態度に出してはいけませんよね。自分の感情をコントロールして、本音を隠してでも患者が求める態度で振る舞わなければなりません。
人間の生死を取り扱う重い仕事でもありながら、自分の感情を抑圧しなければならないということで、心が疲れる看護師はとても多いんです。
患者さんだけではなく、他職種や同僚との人間関係にもピリピリとする場合もありますので、そんな中でも常に笑顔でいなければいけないというのは、とても大変なものです。
看護師という職業を選ぶ人は、根底に「人と関わるのが好きな人」が多いはずです。自分で選んだ仕事で自分の心がすり減って人との関わりが苦しくなるのは、本末転倒な気がしますよね。
自分の感情と求められる態度にギャップが大きいほど、心への負担は大きいものだと思います。
うつ病、燃え尽き症候群、買い物依存症、ギャンブル依存症になったりしやすいなんて言われていますよね。
求められる演技/表層演技と深層演技
表層演技は、簡単に言うと作り笑いをしたり、イライラしても笑顔を作ったりといううわべだけの表情や態度のことです。本心とは無関係です。マクドナルドがやっていた【スマイル0円】というのがまさにこれでしょう。ですが、気分が優れなかったり、感情が揺さぶられたりしたとき、それをひた隠しにして笑顔でいることって、そう簡単にできることではありませんよね。
深層演技というのは、表層演技よりさらに難しく、望ましいとされる感情を自分が感じていると思い込んで演技をすることです。意図的に自分の感情をコントロールすることで、真心を込めた対応をするわけです。
どちらにしてもかなり疲弊してしまいますよね。嬉しいときや楽しいときに笑いたいし、腹が立つときは怒りたいし、悲しいときは泣きたいですよね。人間としてこの世に生を受けて、せっかく喜怒哀楽を与えられたというのに、素直にその心に従えないというのは苦しいものです。
患者の求める態度や表情を読み取る力はあるのですから、自分の心の疲れにも敏感でいてください。危険信号を見落とさないようにしましょう。
自分の感情とどう付き合う?
看護師という職業を選んだら、感情のコントロールが求められるのですが、その場ではなんとかコントロールできたとしても、そのときの気持ちを引きずって自宅まで持ち帰ってしまう人もいます。
これがかなり苦しいことなんですよね。嬉しいことばからいであればいいのですが、悲しい感情や怒りの感情などネガティブな感情を連れ帰ってしまうのは避けたいですよね。
他人の感情を自分の付属品にしてはいけません!
仕事が終わると身体も心もつらくなってしまう。
患者さんに感情移入しそうなのをその場で我慢しても
家に帰ってから思い出してしまうことが沢山あって…。
認定看護師はどうやって感情をコントロールしているの?
私は緩和ケア認定看護師をしているので、がん患者さん(診断前~終末期まで)のがんの告知から積極的治療の差し控えに関する病状説明の場に同席したり、その後の心理的サポートをしてきました。
“自分の家族だったら…”と思いながら患者さんに寄りそってきましたが、やはりシビアなシーンが多いため、表層演技や深層演技をしているととても疲れるんです。共に悲しんだり、悩んだり、苦しんだり。患者さんやご家族の感情にとことん付き合うことになりますから、疲労感は相当なものです。
毎日のように「死ぬのが怖い」「死にたくない」「怖くて眠れない」という相談をうけているわけですから。
スタッフナースであれば、ここまで病状説明の同席や面談依頼が殺到することはないのですが、私が潰れずに認定看護師を続けられたのは、オン・オフの切り替えをしっかりしているからだと思います。
たしかに悲しいことはありますが、私は悲しみや怒りなどの重たい感情は自宅に持ち帰らないと決めました。とはいえ、人間なので100%できるわけではありませんが。
簡単なことで、患者さんやご家族など自分以外の他人の感情には、プライベートな時間まで付き合わないってことです。私がどのように実践しているかというと、ずばり【白衣を着たら看護師、白衣を脱いだらただの私】と言い聞かせることです。
労働の対価として報酬が発生するのは、看護師の私に対してですよね。銭取り主義で冷たい印象を与えてしまうかもしれませんが、そうしないと結局、自分の人生を自分のために生きられなくなります。
そもそもですね、患者さんもご家族も、私たち看護師に「家に帰っても自分(患者)のことを考えてほしい」とまでは思っていませんよ。だって、自分が退勤したあとも、他に看護師が病院にいますから。
つまり、また他に報酬を得るために感情労働をしている同僚の看護師がいるんですから、そちらにお任せしていいでしょう。家に帰ってまで背負う必要はないんです。
なぜならば、プライベートの私には報酬は発生しないからです!!
そう思うと、少し気が楽になりませんか?
燃え尽き症候群
燃え尽き症候群とは、持続的な職業性ストレスに起因する衰弱状態により、意欲喪失と情緒荒廃、疾病に対する抵抗力の低下、対人関係の親密さ減弱、人生に対する慢性的不満と悲観、職務上能率低下と職務怠慢をもたらす症候群。
Wikipediaより
ざっくり言うと、今まで一生懸命働いていた人が、ある日突然それまでのやる気を失って、無気力な状態になってしまうことですね。
燃え尽き症候群には3つの症状があると言われています。
1つ目:情緒的消耗感(仕事で情緒的エネルギーを消耗して疲労感がある)
2つ目:脱人格化(情緒的エネルギーが枯渇して思いやりのない行動をとる)
3つ目:個人的達成感の低下(仕事の質や意欲が低下して達成感が得られない)
例えば営業職のように成果が数値などで目に見える職業に比べると、努力で成果・報酬が得られにくい看護師や介護士などは燃え尽きやすいと言われていますよね。専門家によっては、一度燃え尽きたらもうその仕事はできないと言われれる方もいます。
なので、燃え尽きてしまう前には休まなければなりません。
看護師という職業は、感情労働だけでなく、肉体労働であり、頭脳労働でもありますよね。肉体労働と頭脳労働は、眠れば疲労が回復すると言われますが、感情労働だけは寝ても回復しません。
せっかく憧れの仕事に就けたのだから、やりがいを感じながら、そしてできることなら楽しく働き続けたいですよね。
では、燃え尽き症候群にならないためには、どんな対策ができるのでしょうか?
燃え尽き症候群にならないために
燃え尽き症候群になりやすい人の特徴は、明確にはされていませんが、真面目で熱心に仕事に打ち込む人だと言われています。誰でもなる可能性はありますよね。よほどな怠け者でなければですが。
【自分の感情とどう向き合う⁉】の項目でもお伝えしましたが、オン・オフをしっかり切り替えることがとても大事です。白衣を脱いだら、ただの私!!と肝に銘じてくださいね。
どうしてもモヤモヤしてこのまま帰れない…というときは、同僚と愚痴ることも有効ですよ。これは個人的に本当におすすめできる対策です。
コロナの流行を迎えるまでは、看護師はだいたい仕事のあとに食事に行って発散していたものです。今はコロナが気になるので、食事に行けないにしても、帰りの駐車場までや駅までの移動時間でもいいんです。とにかく話を聞いてもらうなら同僚がいいです。看護師の仕事に理解がない人に伝えても、かえって疲れてしまうこともありますから。
あと、自分の感情を客観的に評価することもいいことです。「疲れてるな…」と思えたもの勝ちです。疲れてると気づいたら、とにかくゆっくり休みましょう。思考停止していいですよ。まずは身体を休めてください。
あえて何も考えず仕事以外の何かに没頭してみたり、逆にとことん自分の感情と向き合って、どうすればいいのか追求してみるのもいいです。とことん向き合った場合は、「これだけ考えたからもういいでしょ」とばっさりと切り替えるのが一番いいので、やはりオン・オフを切り替える力が必要です。
ある程度真面目に働くのは大事ですが、心を壊してまで働かないといけない仕事なんてこの世にありませんからね。生真面目ではなく、抜くところは抜いていいんです。頑張りすぎないことです。
報酬に見合っただけの働きをすればいいだけですから、根詰めすぎずにいきましょう。
まとめ
看護師の仕事は、頭脳労働であり、肉体労働であり、感情労働です。
感情を抑圧して働くことが強いられるため、仕事のあとは心が疲れていることが多い大変な仕事です。そして、真面目で仕事熱心な人は、燃え尽き症候群になる可能性があり、退職まで追い込まれることがあります。
患者さんの気持ちを優先することは大切ですが、そこに押し込めた自分の感情があることを忘れないでください。自分自身の感情も大切に取り扱い、「疲れた」とか「悲しかった」という気持ちに気づいたら、しっかりと心身の休息時間を確保しましょう。
オン・オフをしっかりと切り替えて、『白衣を着ているときは看護師、白衣を脱いだらただの自分』と割り切って、看護師の自分ではなく、プライベートの自分を大切にして、気持ちに折り合いを付けながらいきいきと看護師を続けられるといいですね。
頑張りすぎる必要はありません。心を病んでまで働かなくてはならない仕事はこの世にありません。つらいときには同僚と愚痴りながら、感情の整理をして帰りましょう。
どなたかの参考になったら嬉しいです。
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