お金?家族?物?がん患者さんが大切にしているものって何ですか?

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がん患者さんの特徴
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村上志歩美

緩和ケア認定看護師の村上志歩美です。
看護師としては15年目になり、これまで13,000人を超える患者さんと関わってきました。
緩和ケアの世界でキャリアを積み、順風満帆に思えた看護師人生でしたが、流産を経験して初めて我が子を亡くす痛みを知りました。そして支えてくれた家族や友人の優しさがどんなに人の心を癒やすのかを知りました。
こんな私だからこそ大切な家族を失う人の気持ちがわかりますし、緩和ケアの素晴らしさが伝えられます!
私が持っている知識を余すことなく発信するため、本の執筆や看護学校での講師など精力的に活動中。
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Last Updated on 2022年12月17日 by 村上志歩美

私は一般病棟での経験しかありませんが、緩和ケア病棟では1ヶ月、訪問看護ステーションで1週間の研修を経て緩和ケア認定看護師になりました。

がん看護に携わっていると、がんという告知を受けて絶望にある患者さん、その状況を乗り越えて前向きに治療に向き合う患者さん、治療の継続ができなくなり塞ぎ込んでいる患者さん、準備を整えて死を待つ患者さんなど様々な方と出会います。

多くの方が死が近いという現実を突きつけられるとつらい気持ちになりますから、私も全員がそうだろうと思っていました。

数年前、そんな私の固定観念を根底から揺るがした患者さんがいました。

自分の価値観で患者さんを看てはいけないと鳥肌がたったのを今も思い出します。

患者さん
患者さん

今日は死ぬのにもってこいの日だ!と思って生きてるの。

そう思うと死ぬのはちっとも怖くないの。

衝撃でしたね。

続けてこう話していました。

「晴れた日は歓迎して(死後の世界に)迎え入れてもらえそうだし、雨の日は悲しんで送り出してくれそうって思うと、いつ死んだっていいんだって思えたの。私は病気になるもうずっと前からそう思って生きてきたの。」と。

今日は死ぬのにいい日だ」というのはおそらくネイティブアメリカの言葉だったと思います。

患者さんはがんに命を脅かされて動けなくなったときにも、天気の移ろいに美しさを感じていました。

晴れた日は晴れを愛し 雨の日は雨を愛す 楽しみあるところに楽しみ 楽しみなきところに楽しむ

吉川英治

死ぬのは怖いだろうというガチガチの固定観念をもっていた私は、ここで自分の価値観を前面に出して患者さんの気持ちをアセスメントしてきたことが恥ずかしくなりました。

皆さんは、今あなたの命の次に大切な物は何か問われたとき、即答できますか?

自分の考えと患者さんの考えがおおよそ似ているだろうと思ってはいませんか?

SHIPO
SHIPO

私は今まで13,000人ほどの患者さんと関わってきました。その中で、がん患者さんが大切にしていることについて様々な気持ちを聞いてきました。

今日は、がん患者さんが大切に思っていることやものを厳選してお伝えしようと思います。

看護観が偏ってしまっていないか確認する意味でも、読んでいただけると嬉しいです。

お金を大切に思っている人

患者さん
患者さん

この家には財産が沢山残ってるから絶対に入院しない。

自宅に沢山の財があるという患者さんは、見た目にはとても在宅療養できそうには見えませんでした。

ですが、とても自宅にある財産を大切に思っていました。

入院をすることなく、沢山の財産の中で死にたいと思っている方と出会ったのは、このときが初めてでした。

医療者目線では、絶対に入院した方がいいと考えてしまいがちですよね。

私もどうして入院しないんだろう?と思っていました。

だって、命が尽きたら沢山の財産とはお別れしないといけません。

それでも、その患者さんにとってはそれがただの財産ではないのかもしれません。

お金ももちろん沢山あったかもしれませんが、お金と共に思い出もきっとあったんだろうと考えられます。

無理矢理に入院させることをせず、訪問看護や訪問診療でカバーして患者さんの思いを支えていたんですよね。

価値観は人それぞれだと本当の意味で理解できたのは、このときが初めてだったかもしれません。

患者さん
患者さん

あとで家族が揉めることがないように遺産の管理をしたよ。自分が死んだあとに家族が苦労しないようにね。持っている通帳や暗証番号もしっかりまとめたよ。

終活をしっかりとされている方もいます。

バリバリ働いてきて、自分で金銭の管理をしてきたという方もいますよね。

その大切なお金を誰に託すのか、自分の死後の金銭の流れもコントロールするということは、なかなかできることじゃないと思います。

だって、がんって言われてショックを受けて、そうかと思えば治療が始まり。

そこで並行して自分の死語のことも考えるなんて、私にはできるかどうか。

だからこそ、今は終活といって、大病をする前に考えておくことが進められていますもんね。

生きがいを大切にしている人

患者さん
患者さん

介護の仕事がしたい。

資格を取るために勉強をする。

とても退院できる状況にない患者さんが、資格取得と社会復帰に向けて勉強をしている姿を見たことがあります。

若くしてがんになる患者さんもいます。

人生まだまだこれからというときに、突然社会的役割を奪われてしまう苦痛、計り知れませんよね。

トイレに歩くことができなくても、本当に最後まで資格試験の勉強をしている姿には胸を締め付けられる思いでした。

だからこそ、働ける私たちこそしっかりと働いて社会に貢献したいと思いましたし、そういう諦めない姿が周りに与える影響って必ずありますよね。

10年ほど経った今も私が覚えているんですから。すごい生き様でした。

患者さん
患者さん

人に喜んでもらうのが大好きだったの。

看護師さんにも何かしてあげたい。

そうしたら生きる意味があるもの。

誰かの喜ぶ姿を見るのが生きがいだと話す患者さんもいます。

とても温かい気持ちになったものです。

お菓子を看護師のポケットに詰め込んだりして、「みんなには内緒よ?」って目配せしているお茶目な姿には、とても温かい人柄を感じました。

物やお金の受け渡しは禁じられているのでもらえないんですけれどね。

その気持ちがとても嬉しいんです。

自尊心を大切にしている人

患者さん
患者さん

自分のことは自分でしたいから放っておいて!

がん患者さんは徐々に弱っていくという印象を持たれているかもしれませんが、意外と死の1~2週間前にガクンと身体機能が低下するものです。

ですから、なおさら自分が今までできていたことができなくなるというのはとてもつらくて受け入れがたいんですよね。

「人のお世話になりたくない」、「人に迷惑をかけたくない」というスピリチュアルペインがあると言えます。

スピリチュアルペインについて学びたい方はこの記事をご参照ください▼

家族との時間を大切にしている人

患者さん
患者さん

妻の介護をしていたんだけど、どうも自分が先に逝くことになりそうだな。妻は認知症がひどくなっていてね。少しでも妻と過ごす時間を大切にしたい。そして、残りのことは子どもたちに託そうと思う。自分は穏やかに自分らしく死にたいよ。

奥様のことをとても大切にしている患者さんにも出会いました。

奥様と出かけたところや思い出を沢山教えてくれました。

認知症になった奥様の介護を熱心にしてきたから、自分が入院するとなったときのつらさや、そんな奥様を残して逝かなければならない無念を思うとつらくなります。

ですが、患者さんは奥様を看取れなくても、それまでに尽くしてきたという事実があります。

その姿を見てきた家族も精一杯患者さんの願いを叶えようとされていました。

死に様は生き様なんだと本当にそう思います。

患者さん
患者さん

私はどうしてもワンちゃんと過ごしたい。

犬だって家族なの。動物だから会えないのはつらい。

ペットと暮らしている患者さんも多くいます。

ですが、入院となるともちろんペットと会うことはできなくなります。

在宅療養ももちろんいいのですが、介護者の負担を考えると難しい場合がありますよね。

そんなとき、ペットも面会できる緩和ケア病棟もあります。

ペットと入居できる老人ホームもできているそうですね(がんで症状コントロールが難しい場合は、老人ホームの受け入れは難しいかもしれません)

コロナ禍で家族との面会だって、不確実な物になってしまった点が非常に心苦しいです。

コロナ禍で面会制限が当たり前になってしまったため、今は在宅療養の人気も高まっています。

患者さんが大切に思っている家族と大切な時間を過ごせるようにお手伝いしたいですね。

1人でいることを大切にしている人

患者さん
患者さん

苦しむ姿を見せたくないから、家族にも来て欲しくない。本当は医者も看護師もそばにいないで1人で死にたいと思ってる。でも死亡確認をしないといけないから、医療者だけは仕方ないと思っている。

最期のときを絶対に1人で迎えたいと思っている患者さんがいました。

突き詰めてみると、物音や悲しむ声、切迫した雰囲気を味わいたくないという思いがあったそうです。

その患者さんは死を迎えるときに、何の音もしない静かな環境でその瞬間を待ちたいと思ったということがわかりました。

私は家族の声を聞き、ぬくもりを感じながら、温かい気持ちでそのときを迎えたいと思っています。

だから、その患者さんの考え方が私の考え方と真逆で驚きました。

そんな風に思う患者さんもいるんだということを知っておくのと、知らないのとでは看護の質に大きな差が開きますよね。

患者さんは死について対話することを好んでいましたが、他の看護師はなんと答えていいのかわからずつらくなったそうです。

感情をコントロールしなくてはならないので、その気持ちも十分わかります。

バーンアウトしないように、看護師さんもご自身の心の休息をしっかりととってくださいね。

まとめ/患者さんの価値観からの学び

患者さん
患者さん

今日は死ぬのにもってこいの日だ

私がこれまで多くの患者さんとの関わりの中で影響を受けてきたように、沢山の思いがあるということがわかりますよね。

みんながみんなこれまでの経験や関わってきた人から影響を受けて、大切にしたいものや大切にしたいことが違うんです。

誰だって、自分が最期のときは、自分が大切に思っていることを尊重してほしいですよね。

価値観が違うからと言って、患者さんの思いをないがしろにしてはいけません。

ときには患者さんと向き合うのが怖いこともあるかもしれません。

ですが、患者さんが語り合いを求めている場合、その場にいるあなたにしか聞けないことは絶対にあります。

看護師<br>
看護師

あなたが大切にしていることは何ですか?

患者さんに聞いてあげてください。

そして、必ず、「あなたが大切に思っていることを私も一緒に大切にしたいです」と添えてください

そうすればあなたは、患者さんにとって唯一無二の看護師さんになります。

患者さんが1人で抱え込んでいる負担は少なからず和らぎます。

そしてまた、あなたに相談したいと思います。

こういう繰り返しで患者さんと看護師の信頼関係は築けますから。

がん患者さんの心理的サポートができる看護師さんが1人でも増えることを願っています。

参考になりましたら嬉しいです。

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