Last Updated on 2023年2月20日 by 村上志歩美
「ずっと治療してきたんだからこの病院で最期まで看てください」
「抗がん剤ができなくなったからって見捨てないでください」
急性期病棟で働いていると患者さんの意向に沿えずにつらい思いをすることってありますよね。
急性期病棟から緩和ケア病院に移るときの患者さんの涙からは、言葉がなくても悔しさややるせなさが伝わってくるものです。
「医者に見捨てられた」という患者さんの思いを聞く度に私たち医療従事者もつらくなります。
だから私は緩和ケア認定看護師になりました。
急性期病棟から緩和ケア病棟に移るときの患者さんの『見捨てられた』という思いを減らしたかったのです。
がん患者さんはただでさえ体調や気持ちのつらさを感じて苦しんでいるというのに、見捨てられたという気持ちで病院を去るなんて、悲しすぎますよね。
がんの治療をしているときから、がんの治療ができなくなったときの心の準備をする期間は、とても丁寧に段階を踏んでいかなければなりません。
がんの治療ができなくなってから緩和ケアが始まると思っていると、ギャップが大きすぎて受け入れられなくなるものです。
がんがわかったときから緩和ケアが必要だと言われるのは、治療期と終末期のギャップを埋める為でもあると思っています。
最期は家の布団の上で死にたい。
がんの診断を受けた患者さんは、最期の療養場所について考えることがありますよね。
私たち医療従事者は患者さんやご家族の希望に沿った療養環境を提供したいものですが、なかなか思い通りにいかないことがあるのも現実です。
今日は、終末期のがん患者さんが選択する『最期の療養場所』について考えてみたいと思います。
緩和ケアが受けられる場所|病院
かつては、がんの治療と緩和ケアは分けて考えられていた時代がありました。
今は、がんと診断されたときからの緩和ケアを推進されていますので、がんの治療と並行して緩和ケアをしていくのが通例です。
治療期から緩和ケア医が介入しているケースでは生命予後が伸びたという研究結果もあります。
早期からの緩和ケアの必要性を感じますよね。
看護師から見ても、がん患者さんの主治医と緩和ケア医の併診は心強いです。
国立がん研究センターによると緩和ケアを受ける場は、大きく通院、入院、在宅療養(自宅で受ける緩和ケア)の3つに分けられるとされています。
緩和ケアは、本来どこの医療施設でも受けられるものです。
ですが、病院によって特性があるのも事実です。
救命救急、リハビリテーション、療養、緩和ケアなど病院によって担っている役割は違うものです。
私は急性期病院でがん看護を経験していて、これ以上がんの治療ができない状況になった患者さんを最期まで看たいという気持ちになることが度々ありました。
つらい治療期をずっと看てきて、関係性も構築できて、患者さんからも「この病院で先生と看護師さんに看取ってほしい」と言われるのですから。
最後の最後になって、患者さんを慣れない環境に送り出すなんて、非人道的な行いだと思っていたくらいです。
大切な患者さんだからこそ、大切に看取りたいと思うのです。
「ここまで頑張った患者さんだからうちの病院で看取ってあげたい」と言っている医師もいますから、決して見捨てているわけではありません。
ですが、急性期病院は急性期の治療をする施設です。
残念なことに次々にがんの患者さんが紹介されてやってきます。
がんの治療を受けるべくしてやってきた患者さんに、「空床がないのでがんの治療はできません」など言えるわけもないのです。
悲しいですが、それぞれの施設が担う治療やケアを提供するのが病院の責務です。
私が勤務していた急性期病棟は7対1看護(患者さん7人に対し看護師1人が配置)でしたが、実際は10名近くの患者さんをひとりで受け持つこともありました。
化学療法の患者さんを複数担当しながら、輸血を投与したり、認知症の患者さんの対応、人工呼吸器管理をしている患者さんを担当していたり、とにかく忙しかったです。
ですから、患者さん一人ひとりと関わる時間を捻出することもままならない日々で、終末期の患者さんには居心地のいい環境とは言えなかっただろうと思います。
緩和ケアを受けるのに特化した病院もあります。
最近は緩和ケア病院や緩和ケア病棟のある病院が増えましたよね。
緩和ケア病棟では緩和ケア医が常駐していますし、緩和ケアに長けた医療従事者がほとんどです。
症状緩和や心理的サポートなど緩和ケアに特化した病棟なので、安心して療養できるのが利点です。
そして、緩和ケア病棟は看護師の人員配置も一般病棟とは比べものになりませんので、手厚い看護が受けられるでしょう。
緩和ケア病棟は患者さんの意向に最大限に沿えるよう支援してくれます。
ご家族の付き添いをはじめ、施設によってはペットの入室が許される緩和ケア病棟もあります。
柔軟に対応してもらえるのがうれしいですよね。
ですが、緩和ケア病院以外では緩和ケアが受けられないということではありません。
がん診療連携拠点病院であれば、緩和ケアチームの存在は絶対ですから、専門家がチームを結成してラウンドしています。
一般の病院であっても、専門チームを積極的に活用しましょう!
緩和ケアが受けられる場所|自宅
今では想像もつきませんが、昔はご自宅での看取りが当たり前だったわけですよね。
最近では、訪問診療や訪問看護ステーション、訪問リハビリ、訪問入浴など様々なサービスを在宅で受けることが可能です。
がんの終末期だからといって「自宅に帰りたい」という気持ちを無理に諦める必要はありません。
病状や機器の管理によっては自宅での療養が困難と思われる場合がありますよね。
呼吸器管理、ドレーン管理、気管内吸引など介護度が高かったり、医療処置が必要とされる場合は自宅退院が難しいと判断されることもあります。
医療従事者によっては「医療処置やケアが多い患者さんの自宅療養は無理だ」と決めつけてしまう人もいるかもしれません。
私は認定看護師教育機関の在学中に1週間だけ訪問看護ステーションで実習させていただきました。
病院と自宅とでは、まったく過ごし方が違うのに衝撃を受けた記憶があります。
病院は治療を受けてきた場所であって、自宅は患者さんが大切に暮らしてきた生活の象徴です。
患者さんにとっては、思い出のあふれる大切な場所ですから、最期はご家族に見守られて穏やかに過ごしたいと思うかもしれませんね。
急性期病院からも在宅療養を希望される患者さんがいる場合には、在宅医、ケアマネージャー、訪問看護ステーション、訪問リハビリなど種々の専門家を交えた『退院前カンファレンス』を開催します。
退院前カンファレンスは、病状や生活状況、今後の予測やケアの方針など患者さんがご自宅で過ごす上で必要な情報共有の場となります。
安心して患者さんがご自宅で過ごせるように調整しています。
医療従事者が諦めてしまえば、そこで患者さんやご家族の夢は途絶えてしまうのです。
在宅療養をサポートするスタッフは本当にパワフルな方が多く、「帰りたいなら帰りましょう!!」と背中を押してくれる方がたくさんいます。
患者さんの最期の療養場所を選択するときに、在宅医や訪問看護師さんの熱意には頭が下がる思いです。
病院、老人ホーム、自宅など、どこであってもまずは患者さんの希望を第一に考えて望む場所で最期を過ごせるお手伝いがしたいものです。
自宅療養となるとご家族の協力が必要となるということは考えておきましょう。
最期を迎えたい場所
内閣府のホームページの資料を掲載しますが、左は「介護を受けたい場所」右は「最期を迎えたい場所」が示されています。
古いデータではありますが、介護を受けたい場所と最期を迎えたい場所は少し違うようですね。
自宅で最期を迎えたい方は半数以上を占めていますが、家族の介護負担や急変の対応などの問題から、自宅療養が叶わないケースも多いと言われています。
私はこれまで「緩和ケア病棟はご家族も泊まれて医療従事者もそばにいる最高の施設」という認識でした。
ですがコロナ禍で緩和ケア病棟でもご家族の付き添いができなくなるケースもありました。
緩和ケア病棟で面会や付き添いを禁じられたとき、最期にご家族と十分時間をとれずさみしい思いをした方もいたでしょう。
私見ですが、コロナ禍で在宅療養の需要は非常に高まったように思います。
面会の制限もなく一緒に暮らせるのですから、さみしい思いもしなくてすみますよね。
急性期病院からも在宅療養を希望される患者さんが増え、コロナ禍で訪問看護ステーションを探すのは苦労しました。
患者さんの人生ですから、患者さんが望む場所で最期を迎えられるのが一番ですよね。
自宅療養を選んだら?|「けあタスケル」のご紹介
がん患者さんの自宅療養はご家族のサポートが必要な場合が多くあります。
ですが、ご家族もお仕事をしながら介護をするのはとても過酷ですよね。
私なら働きながら自分ひとりで家族の介護なんてできません!
がん患者さんが自宅療養をする場合、さまざまなサービスを受けられることはお伝えしました。
がん患者さんが自宅療養をするなら、訪問看護や訪問介護、通所サービスなどを利用することをオススメします。
主介護者であるご家族の介護負担を軽減してくれるからです。
がんの患者さんは亡くなる1~2ヵ月前にADL(日常生活動作)が低下すると言われています。
在宅で受けられるサービスを導入した方がいいとはいえ、お金がかかるのも事実です。
医療保険の他にも介護保険の申請はしておいた方がいいでしょう。
がんと診断された早期から介護保険の申請をしても、ADLが自立しており要介護認定にならないことがほとんどですよね。
病状の進行が早いと予測される場合は、主治医が「がん終末期」と主治医意見書に書くことで介護保険の申請において配慮してもらえるケースもあるそうです。
がん患者さんが自宅療養をする場合は、適切なサービスを受けられるように情報を持っておかなければなりません。
看護師といえど、自宅療養に関して必要な制度などは詳しくない場合が多いでしょう。
私も実は自宅療養を勧めることはあっても、詳しい制度や裏技を知っているわけではありません。
そして、制度はときに改正されるものですから、一昔前に勉強したことが今は役立たないということもあります。
情報は常にアップデートしておかなければなりません。
訪問介護、通所介護などお役立ち情報・書式が満載の「けあタスケル」というメディアをご紹介します。
「けあタスケル」では介護に関する最新情報が詳しく掲載されていますので、私たち看護師が患者さんやご家族に案内するのに非常に役立つと思います!
在宅でサービスを提供している介護士さんにも有益な情報が掲載されています。
私たち看護師が病院からご自宅へ患者さんを送り出す前に、患者さんの自宅での生活について考えることはたくさんあります。
何も知らずに送り出してしまうと、患者さんやご家族は困ったときに頼る場所を失ってしまうかもしれませんよね。
自宅療養を選択したがん患者さんやご家族を決して孤独にさせてはいけません。
私たち看護師も新しい情報をアップデートしておきたいですね。
患者さんの希望を叶える
「家に帰りたい」
「主治医に自宅療養は無理だと言われた」
「病院で死にたくない」
患者さんの最期の療養場所に対する思いは、人それぞれですよね。
医療従事者が「無理だ」と言ってしまえば、何も知らない患者さんは諦めるしかありません。
私が関わってきた訪問看護ステーションの管理者さんは「どんな病気でも、どんな状況であっても、サービスさえ上手に活用すれば在宅療養は100%できる」とおっしゃっていました。
現実的には厳しい問題もあるかもしれませんが、医療従事者の「なんとなく自宅で看るのは大変そう」という偏見が、患者さんの選択肢を減らしているかもしれませんね。
がんという病気は、死を想像してしまう病気でつらいことも多いと思います。
ですが、考え方によっては、自分で人生の終焉を迎える場所を選ぶことができる病気でもあります。
私はがんになってよかったかもしれない。突然死だったら家族に何も残せず迷惑をかけてしまうから。がんになったことはつらいけど、自分の人生を最期まで自分で決められたことだけは感謝している。
がん患者さんが病気を受容する過程で「人生の終焉」を自分で決断できることに感謝をしていたエピソードが印象的です。
私にはとても衝撃的な言葉だったのですが、患者さんは「がんになってよかった」と思わないとやっていけない心情だったのかもしれません。
きっとたくさんの悲しい思いをして悔しい涙を流して苦しんだ結果、ようやく見つけた患者さんなりの病気を受け入れるための境地だったのかもしれませんね。
体験をしたご本人にしかわからない気持ちや葛藤があったでしょう。
がん患者さんの苦しみや悲しみや恐れをまったく無くすことは私たち看護師にはできません。
だからこそ、できる限り選択肢は正しく伝えたいと思います。
病院など療養できる施設を選ぶか、自宅での看取りを希望されるかは患者さんやご家族の自由であってほしいです。
医療従事者が「どんなサービスがあるかわからないから自宅療養はできない」と患者さんの選択肢を減らすことがないようにしましょう!
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