死前喘鳴|苦しそうだから吸引してくださいという家族への対応

スポンサーリンク
看取り
この記事を書いた人
村上志歩美

緩和ケア認定看護師の村上志歩美です。
看護師としては15年目になり、これまで13,000人を超える患者さんと関わってきました。
緩和ケアの世界でキャリアを積み、順風満帆に思えた看護師人生でしたが、流産を経験して初めて我が子を亡くす痛みを知りました。そして支えてくれた家族や友人の優しさがどんなに人の心を癒やすのかを知りました。
こんな私だからこそ大切な家族を失う人の気持ちがわかりますし、緩和ケアの素晴らしさが伝えられます!
私が持っている知識を余すことなく発信するため、本の執筆や看護学校での講師など精力的に活動中。
お仕事のご依頼は「お問い合わせページ」もしくはSNSのDMよりご連絡ください!
\follow me/

村上志歩美をフォローする

Last Updated on 2023年3月15日 by 村上志歩美

死前喘鳴(しぜんぜんめい)という用語をご存じでしょうか?

看護師であっても、死前喘鳴を知らない方も多いのではないでしょうか?

緩和ケア病棟など終末期の看護に特化した職場で働いていれば当たり前に知っていることかもしれません。

ですが、意外にも死前喘鳴という言葉は一般病棟では馴染みがないものです。

私自身も緩和ケアの道に進むことを決めて、勉強を始めたときに初めて知りました。

終末期になると吸引をいつまでするか?というところは悩みどころですよね。

すっきりと痰をとりたいのは、家族や医療者だけであって、そのとき患者さん自身は苦痛に思っていないかもしれません。

今回は死前喘鳴について考えてみたいと思います。

臨死期のケア|死前喘鳴

死前喘鳴とは?

家族
家族

痰がゴロゴロいって苦しそうです。吸引してもらえますか?

患者さんの看取りが近くなると喉元でゴロゴロ、カラカラという音が聞こえることがあります。

そばで見ているご家族にとっては、患者さんが「苦しんでいるのではないか?」と動揺してしまう症状の一つですよね。

そして、喀痰吸引を望まれるご家族が多いのも現実です。

看護師としては、終末期の患者さんに「吸引をいつまでするか?」という点は悩ましい問題かもしれません。

死前喘鳴とは、死亡数日前~数時間前に気道内分泌物が増加し、のどが「ゴロゴロ」いうような症状。死前喘鳴が生じる段階では、患者は意識が低下し、苦痛を感じていないことが多い。

ナーシング・グラフィカ 成人看護学⑥緩和ケア

死前喘鳴が生じた患者さんの様子を初めて見るご家族にとっては、苦しそうに思われる場合が多いのですが、実際には患者さんはすでに意識レベルが低下していることがほとんどです。

「患者さんにかえって不快な症状を与えてしまうのではないか?」と考えると、看護師としては吸引が本当に必要なのか考えておきたいことですよね。

死前喘鳴のケア

看護師
看護師

咽頭部のゴロゴロ音は、喀出できない気道内分泌物が上気道に貯留した死前喘鳴と、呼吸器感染症や心不全による下気道で聴取される喘鳴があります。

死前喘鳴は、看取りが近い時期に特徴的な症状です。

死前喘鳴はご家族にとって、見ているのがつらい症状の一つです。

ご家族には、意識が低下している患者さんは苦痛に感じていない可能性が高いことを伝えましょう。

必要以上に吸引をすることの方が、かえって苦痛を与えてしまう場合があるのです。

ご家族は患者さんに「何かしてあげたい」と思っていることがほとんどです。

吸引をしてゴロゴロ音が少しでも減ることで満足感を得るご家族もいるかもしれませんが、一時的に改善が得られたとしても、死前喘鳴は止まらないでしょう。

少し乱暴な表現かもしれませんが、「患者に苦痛を与える吸引でご家族の満足度を高めることが本当に必要とされるケアなのか?」を是非考えていただきたいのです。

以前、亡くなる2日ほど前から死前喘鳴が出現した患者さんがいましたが、ご家族は5分~15分おきに吸引を希望された例がありました。

看護師はご家族に「またゴロゴロ言ってますね…」と毎回吸引をしていたのですが…。

どうでしょうか?

本当に正しいケアだったのだろうか?と私は何度も思いました。

ご家族としては、苦しそうに見える患者さんのために「何かしてあげたい」という気持ちが強かったので、「ゴロゴロしています。吸引してください。」と看護師に伝えることが正解だと思っています。

看護師は、それが死前喘鳴だと適切にアセスメントできていなかったこともあり、「また吸引か…」というネガティブな気持ちになっていただろうと思います。

伝え方に注意を払う必要はあるのですが、看取りが近いことと患者さんは苦痛に感じていないだろうことを説明しておけば、残された時間を吸引に費やさずに済んだのではないでしょうか。

看護師
看護師

喉元がゴロゴロいってご家族にはきつそうに見えるかもしれませんが、患者さん自身は意識も低下していてきつさを感じていない可能性が高いです。かえって頻回の吸引が苦痛になる場合もありますから、必要以上の吸引は控えた方が穏やかな時間を過ごせるかもしれませんね。

あくまでも医療者の意思を押しつけるのではなく、患者さんのためにどうするのがベストかを一緒に考えることが大事だと私は思っています。

ご家族によっては、「きつそうだから吸引をしてもらった方がいいように思っていたけど、吸引をしてもらうのもきつそうに思っていました」という反応がかえってくることもあります。

何が正解なのかわからないのですから、ご家族も手探り状態なんです。

死前喘鳴が出ている時点で、看取りが近いこともあわせて伝えておきたいですよね。

看護師
看護師

亡くなる前に死前喘鳴といって喉がゴロゴロという症状が出ることがあります。おそらく患者さんの症状も死前喘鳴だろうと思います。お別れの時間が近づいてきていると思いますので、残された大切な時間は、ご家族に手を握ってもらったり、声をかけてもらった方が患者さんも嬉しいかもしれませんね。吸引は最低限にしておきましょうか。体位を調整してみましょうか?

どんな風に声をかけるのが正解なのかは私にもわかりません。

看取りの場面に模範解答はないのです。

患者さんそれぞれの価値観やご家族との関係性もありますから、患者さんの数だけ、それぞれの看取りの形があると思います。

患者さんやご家族の長い歴史の中に看護師が関われるのはほんの一瞬なのです。

それを忘れないようにしたいですよね。

ついつい勉強したからと言ってわかった気になってしまったり、自分の考えを押しつけてしまったりしがちですが、患者さん本人とご家族にしかわからないこともありますから。

シビアな話をするときは、それだけの関係性を構築できている人がすべきだろうと思います。

つまり、診断時点や治療期から患者さんの価値観を知ろうと心を尽くしたかどうかが問われるのだと私は考えています。

死前喘鳴の対応

咽頭部のゴロゴロという音には【吸引】をすべきだという気持ちになることがあります。

死前喘鳴に対しては、薬剤投与体位の工夫などの対応があることは知っておくといいでしょう。

薬剤投与といっても、浮腫の軽減だけでなく気道内分泌の抑制の意味も輸液量を減らすということは考えるべきだと思います。

肺炎であれば抗菌薬を使用したり、肺水腫であれば利尿薬という方法がとられる場合もありますよね。

ブチルスコポラミン臭化物(ブスコパン®)スコポラミン臭化物(ハイスコ®)を使用することもありますが、エビデンスは確立していません

実は私も死前喘鳴に対して、ブチルスコポラミン臭化物(ブスコパン®)を臨床で使用した医師にはたった一人しか出会ったことがありません。

病棟看護師は「なんでブスコパンが開始になったんですかね?」と疑問を持っていたので、それくらい死前喘鳴への対応は一般病棟では浸透していないということです。

死前喘鳴に対してブチルスコポラミン臭化物(ブスコパン®)やスコポラミン臭化物(ハイスコ®)を使用するのは、分泌抑制作用を期待しての投与ということになりますね。

また、体位変換は患者さんの苦痛に配慮する必要があります。

患者さんにとって安楽な体位であれば問題ありません。

ご家族へのケア

私たち看護師にできるのは、多量に分泌物があるのであれば適宜吸引をすること、誤嚥を予防すること(口腔ケアを含む)、安楽な体位を調整することがメインになると思います。

繰り返しになりますが、死前喘鳴が出現している時点で患者さんの意識は低下していることが多いのですから、ご家族にもその旨をしっかり説明しておくことが一番大切でしょう。

吸引に関しては、「いつまでするのか?」という極端な考え方ではなく、柔軟に対応すべきだと思います。

私の個人的な意見ではありますが、口腔内に痰の貯留が見られたら、患者さんの負担が少ないと考えられる口腔内だけ吸引してもいいと思っています。

ご家族が患者さんのどんな姿を見て何がつらいと思うのかを考えることは大切です。

痰の音が聞こえること自体がつらいのか、それとも吸引をすることで患者さんが苦しむと思うとつらいのか、痰が口腔内に溢れてきたときにつらいのか。

吸引をした方がいいのか、スポンジブラシで拭い取るだけにしておいた方がいいのか。

様々なことに思いを巡らせて、お別れの時間が迫っているご家族にとって看取りが少しでも不快な時間にならないように対応したいですね。

死前喘鳴は、看護師であっても経験によっては十分に認知されていない症状です。

ご家族にとって、大切な患者さんとのお別れの場面で起こりうる死前喘鳴はつらく感じる症状の一つです。

患者さんの苦痛が少なくて済むこと、付き添っているご家族の負担も少ないことを考えながら看護に活かしていただけると幸いです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました