Last Updated on 2022年11月27日 by 村上志歩美
がんと聞くとどんなイメージを持ちますか?
吐き気があるとか息苦しいとか身体がきついとか・・・
数々のイメージの中でも、患者さんが特に気にしている症状は、痛みに関する心配が最も多いと感じています。
がんと診断を受けた患者さんと面談をしていると
がんって痛みが出るの?
最期は苦しむ人が多い?
多くの患者さんから、痛みや最期の迎え方について尋ねられることがあります。
2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなる時代と言われていますが、経験したことがないからこそ、イメージができないし怖いものです。
7割程度のがん患者さんは痛みを感じると言われており、多くの患者さんを悩ませています。そして、その痛みを緩和するのに医療者も難渋することがあります。医療者が正しい知識を持って、患者さんの痛みの表現を引き出すことができなければ、疼痛コントロールは非常に難しくなります。
なぜか?
痛みは、実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する、あるいはそれに似た感覚かつ情動の不快な体験と定義されています(※痛みの定義は41年ぶりに改訂されました)
(日本疼痛学会 2020.7.25)
感覚かつ情動の不快な体験というのは、完全に体験している患者さんの主観となるのです。評価する医療者は、痛みの原因によって使用する薬剤が異なるため、患者さんの主観をいかに引き出すかで治療方針を決定する必要があります。
この記事を読めば、がん性疼痛にある分類を知り、痛みの原因に適した治療方針があることを理解することができます。そして、痛みの治療をする上で患者さんの痛みの訴えを引き出すポイントを学ぶことができます。
まずは患者さんとコミュニケーションをしっかり図りましょう。
コミュニケーションスキルを振り返りたい方はまずこちら▼
痛みの時間的分類/急性疼痛・慢性疼痛
痛みは時間による分類があります。それは急性疼痛と慢性疼痛の2種類です。
急性疼痛は、受傷したときの痛みであり、比較的短時間で消失します。身体の警告信号としての役割も果たすので、生きていく上で必要な痛みでもあります。脈拍や血圧の変動や呼吸や体温というバイタルサインに変動が起こることがあるため、言葉で訴えられない患者さんの痛みのコントロールに役立てることができます。例えば、寝たきりの患者さんが身体の下にコード類を巻き込んで圧迫されたために痛みを感じているが表現できない場合もあります。そのときに頻脈や呼吸が促迫していたり、顔をしかめていることに気づけば、どこかに痛みがあるのかもしれないと考えられますよね。下敷きになっていたコード類を整理して、体勢を整えることで、苦痛表情が和らいだり、脈拍や呼吸のパターンが安定すると、「やっぱり痛みがあったんだ」と評価することができますよね。
先天性無痛症という病気をご存じでしょうか?読んで字のごとく、痛みを感じない病気ですね。痛みを感じないっていいなと思うかもしれませんが、無痛症の方は寿命が短いとも言われていますし、小児期に亡くなるケースもまれではありません。本来ならば危機的な状況に陥っているとしても、痛みを感じないことで発信することができませんから、親だって何か起こっていても発見が出来なかったり、発見が遅れたりする場合も予測されます。
怪我や骨折など病気をしたら、通常は痛みを感じるので行動を自制したり受診して治療を受けることができるのですが、無痛症の場合は危険な状態であっても自分で行動にブレーキをかけることができません。つまりは、骨折しても気づかずに運動を続けたり、腸閉塞を起こしていても痛くないから穿孔(腸が破れた)しても気づかないかもしれませんね。つまり、生きていく上で、痛みを感じるという機能自体は必要だと考えられています。
慢性疼痛は、3~6ヶ月以上持続する痛みだと考えられていますが、明確な定義はありません。この慢性疼痛というものも厄介です。急性疼痛のところで述べましたが、通常痛みを感じると脈拍や血圧や呼吸などに変調を起こすため、痛みを評価するのに役立つものです。これが、人間の身体が自分の身体に起こっている状況に警告信号を起こしていると言うことですね。人間の身体っていうのは不思議なもので、いずれそんな状況にも身体が慣れていきます。痛みがなくなるわけではないのに、バイタルサインだけは安定してくるということです。いいことと考えるべきか、警告信号を無視してしまうことになると思うと少し怖いことでもありますよね。あくまでも、痛みの原因を取り除かない限り、痛みは続いているという点だけはお忘れなく。バイタルサインが安定しているからといって、痛みがないわけではありません。患者さんが痛いと訴えれば、医療者は「痛みがある」と評価してアプローチしていく必要があります。
痛みは、性質によりさらに侵害受容性疼痛(体性痛・内臓痛)、神経障害性疼痛に分類されます。
痛みの性質による分類/侵害受容性疼痛(体性痛)
侵害受容性疼痛は、体性痛と内臓痛に分けられます。
体性痛とは、筋肉や骨、皮膚、粘膜などに生じる限局された痛みとされていますが、深部体性組織に病変がある場合は、病巣から離れた部位で痛みが表れることもあり、これを放散痛または関連痛といいます。
限局された痛みって何?
例えば、足の小指をテーブルの角でぶつけた経験はありませんか?
瞬時に激痛が走って、「足が痛い」というより「小指が痛い!」と
痛い箇所がピンポイントではっきりとわかることがありますよね。
骨折をしたり、筋肉痛になったりしたときも痛みの部位は限られている
ことが多いと思います。イメージできましたか?
がんの痛みでいうと、骨転移は体性痛です。骨の転移はレントゲンや骨シンチグラフィ、CTなどでわかることも多いので、痛みが現れる前から今後痛みが出現しうる場所を特定しることもできますね。骨転移の場所が痛む場合は、体性痛であろうと評価し、体性痛に適した薬剤を用いることで対処できます。ちなみに体性痛には、ロキソニンなどのNSAIDSが奏効すると言われています。
痛みの表現としては、「ズキズキ」とか「ヒリヒリ」または、「うずくような」「脈打つような」「鋭い」などの訴えが特徴的です。
患者さんが痛みを訴えた場合、痛みの部位だけでなく、どんな痛みか表現してもらうことは、痛みの分類を特定する助けとなり、治療方針を決定するのに役立てることができます。
痛みの性質による分類/侵害受容性疼痛(内臓痛)
内臓痛は、食道や胃、小腸、膀胱、胆管などの炎症や狭窄・閉塞、肝臓や腎臓などの炎症や臓器の腫大による伸展、膵臓の腫瘍浸潤などにより起こるとされています。体性痛と比較すると、内臓痛は痛みの局在が不明瞭になりやすいというのが特徴です。
局在が不明瞭ってどういうこと?
お腹を下してしまった経験は誰にでもあると思います。
下痢の時の痛みも、もちろん内臓痛です。
下痢の時はお腹のここがピンポイントで痛むというより
「お腹全体がなんとなく痛い」と思います。
女性の場合は、生理痛などもイメージしやすいでしょう。
体性痛が鋭い痛みであることが多いのとは逆で、「鈍い」痛みであるのが特徴です。表現としては、「ズーン」「重い」「圧迫されるような」という痛みを訴えられることが多くあります。体性痛とは違う表現をされることが多いので、痛みの表現を聞き逃さないことが重要です。ちなみにがんによる内臓痛であれば、オピオイド(医療用麻薬)が奏効すると言われています。つまりは、ロキソニンなどのNSAIDsだけに頼っていても、十分な除痛ができない場合があるので、痛みの性質を的確に評価することはとても重要なんです。
痛みの性質による分類/神経障害性疼痛
神経障害性疼痛という言葉を聞いたことはありませんか?以前テレビCMでも放映されていましたよね。
神経障害性疼痛は、神経組織が直接ダメージを受けた場合やがん患者さんでは、腫瘍が増大して末梢神経や脊髄への浸潤したことによって起こったり、抗がん剤の副作用や手術など他の原因でも発症する可能性があります。
例えばどんな痛みがあるの?
想像しづらいなぁ。
長時間正座をしたあと、足がしびれたことはありませんか?
あのジンジン、ビリビリとしびれる痛みが想像しやすいと思います。
私は以前、患者さんを抱えたりしたときにぎっくり腰を経験しました。その後は数日ほとんどベッド上で過ごすことになったのですが、それから腰から臀部、大腿部までずっとビリビリとした神経痛に苦しみました。腰をかがめることができないので、下着の着脱も難しく、くしゃみで突発的に起こる身体の反射でズキッと電撃が走りました。内服だけでは効かず、神経のブロック注射も受けることになりました。ぎっくり腰をしたことがある方は、このお話で想像がつくかなと思います。
神経障害性疼痛の痛みは「ジンジン」「ビリビリ」「チクチク」と表現されることもありますし、患者さんによっては「電気が走るような」「針で刺すような」「突っ張るような」「焼けるような」という表現されることもあります。さらに、神経障害性疼痛の特徴として、アロディニアといって、本来ならば痛みを感じない程度の刺激でも痛みを感じてしまうことがあると言われています。痛みに過敏になんてなりたくないですよね。
そしてこの神経障害性疼痛は、厄介なことにロキソニンなどのNSAIDsやオピオイド(医療用麻薬)だけではコントロールすることが難しい痛みです。なので、体性痛や内臓痛ではなく、神経障害性疼痛の場合は、鎮痛補助薬を併用することも検討する必要があります。
ここでやはり忘れてはいけないのが、痛みの評価を適切にすることが治療への第一歩となるということです。
はじめにもお伝えしましたが、
痛みは実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する、あるいはそれに似た、感覚かつ情動の不快な体験
日本疼痛学会 2020.7.25
ですので、やはり痛みは患者さんの主観を丁寧に聴取して評価をする必要があります。でなければ、どんな痛みがどこにあるのか、その痛みにはどんな治療が効果的なのか判断することができません。
まとめ
痛みには時間による分類として、急性疼痛と慢性疼痛があります。
さらに痛みの性質による分類は、侵害受容性疼痛(体性痛・内臓痛)と神経障害性疼痛があり、それぞれの痛みには特徴があり、効果が得られる薬剤も異なります。がんの患者さんに起こる痛みというのは複雑なものであり、この複数の痛みを同時に抱えている場合もあります。
医療者は患者さんが感じている痛みの原因を的確にアセスメントし、治療に適した治療や薬剤を導き出すことが求められます。そのためには、患者さんから痛みの表現を引き出すことが必須となります。
患者さんから痛みを引き出すことから治療は始まります。
つまり、すべてはコミュニケーションから!
私ががん性疼痛の勉強に使用した本を紹介しています▼
がん性疼痛の評価ツールについては、コチラ▼
参考になったら幸いです。
コメント