Last Updated on 2023年12月3日 by 村上志歩美
緩和ケアと言えば、疼痛コントロールが1番に思い浮かぶ方は多いでしょう。
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がん性疼痛の治療の中でもモルヒネは特に有名ですよね。
一般の方でもモルヒネという名前は一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
ですが、モルヒネという名前を聞くだけで麻薬、依存症、死期を早めるといったイメージを抱く方もまだいらっしゃいます。
あなたは医療用麻薬について誤解をしている患者さんに正しい知識を伝えられますか?
モルヒネってがんの末期の方が使うんでしょう?
使ったら最期だからまだ私は使いたくない。
モルヒネを使ったら依存症になってしまう!
廃人になったらどうしてくれるんだ!
今でこそインターネットで簡単に情報を得られるような時代になりましたが、正しい情報を持っている患者さんだけではありません。
ネット上には古い情報や誤った情報もあるため、情報弱者の患者さんにとっては正しい知識を得ることが難しい場合もあります。
そんなときに患者さんのそばにいる私たち看護師が正しい知識を提供できているでしょうか?
思いに寄り添うことはとても大切ですが、誤った知識は正すことも大切ですよね。
モルヒネについて知識がないと感じている看護師さんが少しでも自信を持って患者さんに指導ができるようになってほしいなと思います(^^)
オピオイドって何?
がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2020年版)によるとオピオイドは、麻薬性鎮痛薬やその関連合成鎮痛薬などのアルカロイドおよびモルヒネ様活性を有する内因性または合成ペプチド類の総称である。
難しすぎてよくわかりませんよね。
これは患者さんに説明しづらいですね。
私は患者さんには「医療用麻薬という分類のがんの痛みに安心して使えるお薬です」と説明しています。
ただし「麻薬と聞くと不安になるかもしれませんが、正しく使えば依存症にもならないし、副作用の対策もしっかりできるので、安心して使えます!」と念を押します。
がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2020年版)には大事なことが書いてあるので、個人的には購入をお勧めします。
なんと特定非営利活動法人日本緩和医療学会のHPからPDFで内容が見られるので、購入せずとも一読しておいた方がいいですね!
少し難しいのですが、オピオイドは、脳や脊髄にあるオピオイド受容体に作用して鎮痛効果を発揮します。
代表的なオピオイド受容体は、μ(ミュー)受容体、δ(デルタ)受容体、κ(カッパ)受容体があります。
オピオイドは主にμ受容体に作用しているということだけ知っておいてください。
モルヒネの特徴は?
モルヒネはケシの花から抽出される天然物(アヘン)を原料として製造されます。
モルヒネの有効成分が血中へ移行することで鎮痛効果を発揮し、肝臓で代謝(M6G/M3G)され腎臓から尿中へ排泄されます。
モルヒネの代謝産物であるM6G(morphine-6-glucuronide)は強力な鎮痛・鎮静作用をもち、傾眠や鎮静の原因になると言われています。
M3G(morphine-3-glucuronide)には、鎮痛作用はありませんが、神経毒性をもつため、痛覚過敏やアロディニアの発現に関与している可能性があるともされています。
アロディニアというのは、通常痛みを感じない程度の刺激でも痛く感じてしまうことです。
例えば、衣服がすれる刺激だけで痛みを生じることもあります。
モルヒネは内服、貼付剤、座剤、注射と投与経路が豊富なことが特徴的ですよね。
基本的に経口投与から開始しますが、内服が困難な場合は他の投与経路があります!
がん患者さんによっては、嚥下機能が低下したり、吐き気や口腔内のトラブルなどで内服ができない場合もありますからね。
以前、嚥下困難な患者さんにモルヒネの徐放剤を粉砕してとろみ水に混ぜて与薬していた事例がありました。
大変なことです!
忘れていけないのは、モルヒネの錠剤は噛み砕かないよう指導することです。
徐放剤というのは特殊な加工がされていますので、噛み砕いて内服するとせっかくの特殊加工が壊れてしまいます。
モルヒネ徐放剤を噛み砕いて内服することで一気に血中濃度が上昇してしまい副作用が強く出てしまう場合があります。
徐放剤は特殊なコーティングをしており、ゆっくりと成分が溶け出してじんわりと効果が出る仕組みです。
オピオイドに限らず、徐放剤は絶対に割ったり噛み砕いて内服してはいけません!
モルヒネで中毒になるのではないかと心配される患者さんもいますが、医師の処方に従って適切に使用していれば、モルヒネで中毒や依存症になることはありません!
ちなみにモルヒネには天井効果がないため、増量するのに限界はありません!
「モルヒネは使いすぎると効果がなくなる」というのも誤った認識です。
【メリット】
モルヒネは長く使われてきたため、効果と副作用の予測がしやすく、副作用対策も確立している。
モルヒネは剤形が豊富で経口、経直腸、皮下、静脈内、脊髄腔内(硬膜下、くも膜下)への投与が可能です。
モルヒネは呼吸困難感や咳嗽の軽減にも効果があるため、肺がん患者さんの症状緩和に役立ちます。
【デメリット】
腎機能が低下している場合、モルヒネは体内に活性代謝物が蓄積して副作用発現リスクは上昇します。
消化管の運動抑制に伴う副作用として便秘や麻痺性イレウスなどが生じる可能性があります。
モルヒネに限らないが、オピオイドによる幻覚やせん妄などが出現する可能性もあります。
患者さんへの説明は?
がん性疼痛にはかなり鎮痛効果を発揮してくれるモルヒネですが、怖いイメージが定着している患者さんもいます。
今は医師に向けた緩和ケア講習会も開催されているため、一昔前に比べると薬剤の使い方が上手な医師が増えたのを実感しています。
ですが、私たち看護師はどうでしょう?
看護師としての意識の違いですが、「オピオイドのことはよくわかりません」という看護師さんもいますよね。
私は何度も看護師の医療用麻薬の使い方に絶望してきました。
痛いけどモルヒネは飲みたくないから我慢しとく。どうしてみ痛くなったらそのときに考えます。
わかりました。じゃあまた我慢できなくなったら教えてください。
がん性疼痛のある患者さんがオピオイドの使用を避けたとき、その原因を追求しない看護師は意外と多いものです。
患者さんがオピオイドを使用しない理由を知ろうとしないのはなぜでしょう?
仕事が忙しいからですか?
それともオピオイドに関する知識がなくて説明ができないからでしょうか?
看護師の行動によって、患者さんのQOLは下がっているかもしれませんよ!
モルヒネに限りませんが、オピオイドには三大副作用があると言われています。
- 眠気
- 嘔気
- 便秘
この三大副作用を覚えるだけで患者さんへの説明はしやすくなります。
①眠気
オピオイドを使用したときや増量したときは、特に眠気が出やすいです。
ですが、オピオイドによる眠気は3~5日で耐性がつくことがほとんどです。
私が臨床でみた中では、心地よい程度の眠気を訴える患者さんも数日以内で耐性がつき、症状は消退していきました。
ときどき、オピオイドの量が多く、不快な眠気を訴える方もいます。
不快な眠気と言われてもピンとこない看護師さんもいるかもしれませんね。
例えば、医療従事者が患者さんと話していても話の途中で返事が返ってこないまま寝落ちしてしまったり、夜間も寝ていたのに日中も訪室する度に寝ていたりすることがあります。
不快な眠気が続く場合は、単に薬剤があっていないかもしれませんし、オーバードーズ(薬の量が多く効き過ぎている)かもしれません。
レスキュー(頓服の医療用麻薬)を頻繁に使用していないか、レスキュー使用に関わらず不快な眠気がないか確認しておきましょう。
オピオイドは、基本的に最小容量から開始になるため、安心して使用できますが、レスキューの使用頻度によっては傾眠となる場合があるので注意しましょう。
患者さんへの説明も丁寧にわかりやすい言葉でしておきましょう。
薬剤師さんが説明してくれる場合も多いのですが、日々関わりがある看護師からも平易な言葉で伝えておくとさらに理解が深まります。
うとうとする程度であればいいのですが、起きていたいのに強い眠気があったら教えてくださいね。心地よい程度の眠気であれば、3~5日で症状がなくなることがほとんどです。レスキューを使用する頻度も知りたいので、内服した時間はメモをしましょう!
患者さん自身は、眠気があることで痛みは和らいでいると感じてしまう場合があります。
中には、「眠れてるってことは痛みもないってことでしょうね…?」と疑問を持ちながら生活をしている患者さんもいるくらいです!
患者さんは自分で疼痛をコントロールできていると体感していた方が絶対にいいです!
日常生活に支障がでるほどの強い眠気があっては、QOLは下がってしまいますから。
オーバードーズに誰より早く気づく看護師さんもいますよね。
普段から患者さんとのコミュニケーションをとっているから気づけるんです。
ごく稀に主治医でもオーバードーズに気づかない場合もありますから、一番身近な看護師が素早く気づくことで薬剤調整はスムーズにできます。
②嘔気
オピオイドを使用すると嘔気が出る方もいます。
特にオピオイドを開始した直後や、開始直後の増量時に出現することが多いです。
数週間経過して、突然嘔気を訴える場合はまずないと思ってください。
もし安定した量の医療用麻薬を使用していて、数週間後に嘔気が出現した場合、他の要因による嘔気だと思われます。
ちなみにオピオイドの使用による嘔気は1~2週間で耐性がつくと言われています!
永遠に苦しむわけではないので、患者さんには安心して使用してほしいですよね。
最近では、医療用麻薬を開始すると同時に制吐剤を併用する場合がほとんどです。
医療用麻薬を開始すると吐き気が出る場合があります。1~2週間で症状がなくなることがほとんどですし、その期間は吐き気止めも一緒に使用することで吐き気の予防はできます。
事前に患者さんが安心できる情報を与えておくことで不安は軽減します。
③便秘
先に述べたように眠気や嘔気は耐性がつくまでの期間が限定されています。
オピオイドを使用している限り全期間で出現する可能性があるのが、便秘です。
オピオイドの中でもモルヒネとオキシコドンは特に便秘を起こしやすいですよね。
がんの患者さんは、化学療法を受けている方もいます。
化学療法の種類によっては便秘をしたり下痢をしたりしますから、排便コントロールはとても難しいです。
オピオイドの三大副作用の中で、唯一耐性がつかないため、患者さんには排便コントロールが必要だと説明しておきましょう。
今は下剤も種類が増えてきていますので、その点も説明しておくと患者さんも安心されます。
患者さんには、ご自身の排便状況を確認するように指導することも大切です。
便は出てますよ。
患者さんによっては、排便の量にこだわらずに排便があればよしとしている方もいるかもしれません。
排便の量、性状、回数、残便感などもしっかりと聞いておきましょう。
ご高齢の患者さんであれば、排便があったかどうかを忘れてしまうこともありますから、排泄チェック表などを活用してみてもよいでしょう。
患者さんの誤解を解こう!
なぜモルヒネを必要以上に恐れる患者さんがいるのか想像できますか?
正しい情報を知らないから怖いんですよね。
痛いけどモルヒネは飲みたくないから我慢しとく。どうしても痛くなったらそのときに考えます。
患者さんがもしも、がん性疼痛を我慢していると思ったら、まず【オピオイドに抵抗感をもっている理由】を探ることから始めてみましょう。
私たち看護師は、モルヒネが安全に使用できる薬剤だとうことを繰り返し伝えていかなければなりません。
動かなければ痛くないから大丈夫です。
痛みと付き合っているのは患者さんです。
患者さんのQOLをいたずらに低下させてしまってはいけませんから、痛みがあるのならコントロールすべきですよね。
痛いまま残りの人生を過ごすなんて、生き地獄だと思いませんか?
以前、とある患者さんが口にしていた言葉が私は忘れられません。
がんになって余命が近いのはわかりました。残された僕の人生をなるべく痛くなく、なるべく苦しまず、そして尊厳を保って生きていきたいと思います。
終活も済ませて、子どもたちに死後の問題は託して、人生最期の日を迎える準備をしていた患者さんでした。
達観していますよね。
「モルヒネのおかげでしっかりと自分自身を保っているんだ」と話されていました。
上手に付き合えば、モルヒネは心強いサポーターになるんです。
あなたのそばに、痛みを我慢している患者さんはいませんか?
もし、オピオイドに誤解があるようなら、そばにいるあなたしかその患者さんを救えないかもしれませんよ。
まずは、患者さんのオピオイドに対する理解度からお話を聞いてみてくださいね(^^)
※今回参考にした本のリンクを貼っておきますのでご参考になりましたら幸いです。
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