Last Updated on 2023年8月16日 by 村上志歩美
がん看護に携わる医療従事者は、患者さんの予後について考えるときが度々ありますよね。
私はあとどれくらい生きられますか?大体でいいから教えてほしい。
患者さんに余命を尋ねられたことはありませんか?
私は何度も尋ねられました。
ですが、正直なところ『わからない』ですよね。
主治医でさえ「寿命は神様にしかわからない」と答えていたりもします。
もしかすると患者さんの疑問は余命を知りたいわけではないかもしれません。
患者さんの望みは「死を迎えるまでにやりたいことがやりきれること」だったりします。
例えば、子どもの結婚式には参列したい…とか。
いつ命を終えるのかではなく、大切な役割を全うできるのかが気になっている場合もあります。
そして、その不確定な未来が希望になったりしますよね。
決して余命を尋ねられたら具体的な余命を伝えなければならないわけではありません。
患者さんが本当に必要にしているのが『余命』、つまり「自分が死を迎えるまでのタイムリミット」に関する情報なのかどうかは、医療者も十分に注意を払って見定めなければなりません。
いつまで生きられるか知りたがるその先の理由を追及できるといいですよね。
とはいっても、中には本当に純粋に余命を知りたい方もいます。
余命を知りたいのは、患者さんだけでなく、私たち医療者の場合もあります。
患者さんをお子さんの結婚式に参列させてあげたいけれど、あとどれくらい時間が残されているんだろう。わからないから希望を持たせすぎるのもよくない気がするし…
患者さんによっては予後を長く見積もっていたために、終活がやり遂げられなかったというケースもあります。
患者さんやご家族の希望をなるべく叶えたいと思う私たち看護師にとっては、予後予測はとても大事ですよね。
ですが、医療者は患者の生命予後を実際より長く予測する傾向があると言われているんです。
おおよそでいいから、予後の予測ができるようになりたいと思ったことはありませんか?
今日は、そんな看護師さんに向けて予後予測に役立つ情報をお伝えしたいと思います。
PaPスコア:Palliative Prognostic Score
PPSとは臨床的な予後の予測、Karnofsky Performance Scale、食欲不振、呼吸困難、白血球数(/mm³)、リンパ球(%)の該当得点を合計して予後を予測する方法です。
PaPスコア(PPS)なんて聞いたことないという方ももちろんいらっしゃいますよね。
実は私も、予後予測を判断する方法があるなんて、緩和ケア認定看護師教育課程で学ぶまで知りませんでした。
PaPスコア(PPS)の計算式を以下の表にまとめておきますね。
臨床的な予後の予測 | 1~2週 3~4週 5~6週 7~10週 11~12週 >12週 | 8.5 6.0 4.5 2.5 2.0 0 |
Karnofsky Performance Scale | 10~20 ≧30 | 2.5 0 |
食欲不振 | あり なし | 1.5 0 |
呼吸困難 | あり なし | 1.0 0 |
白血球数(/mm³) | >11000 8501~11000 ≦8500 | 1.5 0.5 0 |
リンパ球(%) | 0~11.9 12~19.9 ≧20 | 2.5 1.0 0 |
『臨床的な予後の予測』は主治医に確認するのが一番です。
臨床的な予後の予測が得点の多くを占めるため、客観性は小さいとも言われますが、予測精度が高いのがこのPPSの特徴です。
ここで気になるのが、Karnofsky Performance Scaleではないでしょうか?
KPSは患者さんの日常生活動動作、介護の必要性などを踏まえて得点をつけます。
KPSの点数をPPSの得点に換算しますが、10~100までの状態を全てを覚えるのは難しいですし、私も覚えていません。というか、覚える必要はありません。
PaPスコア(PPS)では、30以上か20以下かという2通りに区別されるだけなので、『非常に重症』or『死期が切迫している』状況以外であればPPSでは0点になります。
臨床的な予後の予測、Karnofsky Performance Scale、食欲不振、呼吸困難、白血球数(/mm³)、リンパ球(%)の合計得点を計算して、表に当てはめて生存期間を予測します。
得点 | 30日生存確率 | 生存期間の95%信頼区間 |
0~5.5点 | >70% | 67~87日 |
5.6~11点 | 30~70% | 28~39日 |
11.1~17.5点 | <30% | 11~18日 |
ちなみに9点以上であれば予後は21日以下(週単位)の可能性が高く、5.5点以下であれば予後は30日以上(月単位)の可能性が高いとされています。
こういうざっくりした見立てが現場では一番求められるかもしれませんね。
患者さんの予後は「週単位」なのか、「月単位」なのか考える癖をつけておきたいものです。
PPI:Palliative Prognostic Index
続いてPPIです。
ここでいうPPIはプロトンポンプ阻害薬じゃありません。
私は消化器内科に勤めていたので、PPIと聞くとすぐに胃薬を連想していました。略語って難しいですよね。
PPIは、経口摂取量、浮腫、安静時呼吸困難、せん妄の該当得点を合計して予後を予測する方法です。
PPIの計算式はこちらの表をご覧ください。
Palliative Performance Scale | 10~20 30~50 ≧60 | 4 2.5 0 |
経口摂取量 | 著明に減少(数口以下) 中程度減少(減少しているが数口よりは多い) 正常(高カロリー輸液の場合も含む) | 2.5 1.0 0 |
浮腫 | あり なし | 1.0 0 |
安静時呼吸困難 | あり なし | 3.5 0 |
せん妄 | あり(原因が薬物単独、臓器障害に伴わないものは除く) なし | 4.0 0 |
さっそく混乱してしまいそうな略語がでてきましたね。
計算式の一番上の項目にまたしてもPPSと略せてしまうPalliative Performance Scaleの文字があります。
1つめにご紹介したのは予後予測の方法はPPS(Palliative Prognostic Score)でしたね。
PPI(Palliative Prognostic Index)の計算式の表で用いるのは、Palliative Performance Scaleですのでご注意ください。
Palliative Performance Scaleの表はこちら▼
起居、活動と症状、ADL、経口摂取、意識レベルの全てが一致しないため点数をつけづらく感じる場合もあるかもしれません。
表にある項目を左から優先度が高い順に並べられているため、患者に最もあてはまるレベルを優先度の高い項目から決定するようになっています。
起居>活動と症状>ADL>経口摂取>意識レベルの順番で最も当てはまるレベルを選びましょう!
PPIの計算式での合計得点が6より大きい場合、患者さんは3週間以内に死亡する確率は感度80%、特異度85%、陽性反応適中度71%、陰性反応適中度90%であるとされています。
わかりづらい表現ですよね。
6.5点以上であれば予後は21日以下(週単位)の可能性が高く、3.5点以下であれば予後は42日以上(月単位)の可能性が高いと理解していればいいでしょう。
PPIは客観症状に基づいて予測するため客観性は高いが、長期予後の予測精度は低いので注意しましょう。
PPIは3週間生存の予測に用います。
患者さんの夢を叶えたい
PaPスコアは中期的な予後(月単位)、PPIは短期的な予後(週単位)を予測する指標だということはおわかりいただけましたか?
予後を予測して患者さんの希望や夢を叶えられた症例もありました。予後を知ることは医療者だけでなく、患者さんやご家族にとっても重要な場合があります。
個人情報保護のため詳細は書けませんが、とあるがん患者さんには予後が週単位となっていました。
患者さんの希望は子どもの結婚式に参列することでしたが、結婚式は数ヶ月後に予定されていました。
現実的には患者さんの結婚式に参列したいという希望は果たせそうにありませんよね。
こんなときに特例で病院で簡易的な結婚式をしてしまえ!!と踏み切った症例も私はみてきました。
結婚式場での結婚式ではなく、病院のカンファレンス室での結婚式が開催されたのです。
患者さんの予後を予測したからこそできた支援ですよね。
医療者までもが奇跡的に患者さんの余命が伸びることを祈っていても、そこまで命が続かない場合だってあるのですから。
予定取りの式場で結婚式を挙げていた場合、患者さんは晴れ姿を見る夢が叶うことがなかったのです。
「今なら晴れ姿を見届けられる」という専門的な判断と病院の全面協力があってこそですが、患者さんの目標や夢を叶えるためには、予後予測というのは本当に大事なんだと思います。
予後を知るということは、患者さんやご家族にとっては時に残酷なことではあります。
ですが、正しく知っておくと実現不可能なことも前倒しで企画して実現できるかもしれませんね。
どなたかの参考になれば幸いです。
緩和ケアレジデントマニュアルは緩和ケアを学ぶ人にはオススメです!
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