SHARE|悪い知らせの伝え方|がん患者の告知に同席するポイント

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心理的サポート
この記事を書いた人
村上志歩美

緩和ケア認定看護師の村上志歩美です。
看護師としては15年目になり、これまで13,000人を超える患者さんと関わってきました。
緩和ケアの世界でキャリアを積み、順風満帆に思えた看護師人生でしたが、流産を経験して初めて我が子を亡くす痛みを知りました。そして支えてくれた家族や友人の優しさがどんなに人の心を癒やすのかを知りました。
こんな私だからこそ大切な家族を失う人の気持ちがわかりますし、緩和ケアの素晴らしさが伝えられます!
私が持っている知識を余すことなく発信するため、本の執筆や看護学校での講師など精力的に活動中。
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Last Updated on 2023年1月9日 by 村上志歩美

この記事を読んでいるあなたは、きっとがん患者さんに悪い知らせを伝えるときに不安に思ったり困った経験がある方でしょう。

私もこれまで13年余りの看護師人生において何度と困る質問をされたり、いたたまれない気持ちになったことがあります。

尋ねられたら答えなくてはならないと思いますし、泣かれたら上手に慰めなければならないと思ってしましまうことがありますよね。

がん看護の現場は悪い知らせの連続

根治した場合を除きますが、がん患者さんは度々悪い知らせを受けることになります。

特にがんと診断されたときのショックは非常に大きいものです。

「頭が真っ白になった」という言葉をよく聞きます。

同じように「まさか自分ががんになるなんて」という言葉もよく聞きますよね。

がんの診断がされる現場といえば、多くの場合が大学病院や総合病院など規模の大きい病院でしょう。

かかりつけ医から「がんの疑いがある」と告げられて精密検査を受ける場合は、どうしても大きい病院に紹介されることがほとんどですよね。

ですが、大きな病院は特に患者さんの数が多く、慌ただしいことが多いのです。

そして、現在は入院期間を短くすることが求められているため、検査結果が出るまで入院していることは滅多にありません。

つまり、告知は外来でされることが多いのが現実です。

そこでどれだけ看護師がサポートできるのかがポイントになります。

医師から告知があることを知らされない場合も多いため、看護師が同席せずに告知が終わっているケースはけっこうあるんですよね。

医師とも積極的にコミュニケーションをとっていなければ、どんなに私たち看護師が告知のときのサポートを学んでいたとしても意味がありません。

外来での告知に同席できたら、「がん相談支援センター」や「ピアサポート」など情報提供しておくととてもいいです!

告知後に患者さんがショックを受けたまま帰る姿を見送るのはとてもつらいですが、家に戻ってしまえばサポートなどできませんから。

院内の「がん相談支援センター」の場所を案内し、パンフレットをお渡ししておくと困ったときには電話相談があります。

また、がん患者さんにとって「最大の悪い知らせ」となるのは、治療の中断や中止を告げるときが多いように思います。

希望を失わないように支えてきた医療者が、ついにがんの治療がなくなったと伝えるのですから、お互いにものすごい精神的な負担となります。

余命などを尋ねられる場合もありますが、患者さんは具体的に自分の命日を知りたがっているわけではないということだけは覚えておきましょう。

困る質問には、あえて質問で返す方法もあります。

悪い知らせも起承転結で伝える!

準備事前に重要な面談であることを伝えておく
以下を確認する
 ・プライバシーは保たれているか
 ・十分時間はあるか
 ・電話は切ったか(サイレントもしくはバイブで)
 ・家族の同席の意向を尋ねたか
 ・基本的な態度
面談を開始する
・患者の気持ちを和らげる言葉をかける
・経過を振り返り、病気の認識を確認する
・家族にも同様に配慮する
・ほかの医療者を同席させるときは患者の了承を得る
悪い知らせを伝える
・直前に心の準備のための言葉をかける
・わかりやすく明確に伝える
・感情を受け止め、気持ちをいたわる言葉をかける
・写真や検査データを用いる、紙に書く
・患者の理解度を確認、速すぎないか尋ねる
・質問や相談があるかどうか尋ねる
治療を含め今後のことについて話し合う
・標準的な治療、選択肢について説明する
・推奨する治療法を伝える
・がんの治る見込みを伝える
・セカンドオピニオンについて説明する
・患者が希望を持てる情報も伝える
・患者の日常生活や仕事、利用できるサポートについて伝える
面談をまとめる
・要点をまとめて伝える
・説明に用いた紙を渡す
・今後も責任を持って診療に当たること、見捨てないことを伝える
・患者の気持ちを支える言葉をかける

SHAREとは

SHIPO
SHIPO

「悪い知らせの伝え方」のモデルであるSHAREをご存じでしょうか?

S:Suppurtive environmento(環境をつくる)

H:How to deliver the bad news(悪い知らせを伝える)

A:Additional information(付加的な情報を伝える)

R&E:Reassurance and Emotional support(安心感を伝え、気持ちに配慮する)

大切なことは

  1. 場を設定する
    • プライバシーの配慮
    • 同席者の選定(患者に確認)
  2. 患者の認識・意向を知る
    • 患者が今知りたいこと、心配していること、知っていることを確認
    • 患者がどの程度知りたいのかを確認(全患者がすべての情報を知りたいわけではない)
  3. 患者を支え質問を促しながら伝える
    • できないことだけでなく、できることも伝える
    • 質問を促す
  4. 精神的支援をする
    • つらい気持ちを表出することは当然だと伝える
    • 患者の気持ちと心配に関心があること、一緒に考えることを伝える
    • つらい気持ちが次第に治まり、今までのように対処できるようになると伝える(悪い知らせを受けておおよそ2週間で適応)

私が感動した医師のコミュニケーション

終末期になると「なんで先生は治してくれないんだ!」と患者さんの怒りが爆発したりしますよね。

それはそれまでの医師と患者さんとのコミュニケーションに問題があったという理由がほとんどです。

医師によっては、がんが根治しないとわかっている診断時に絶望に突き落としてしまう覚悟で「このがんは治らない」とか「これからできる治療は根治を目指す治療ではなくて、目的が”延命”になります」とはっきり伝えています。

なんて残酷なんだろうと思うかもしれませんが、根治すると思い込んでいる方が後々苦しい思いをさせてしまいます。

私は絶対に正確な情報を十分に配慮した上で伝えることが正しいと思っています。

ある医師は、がんの診断時、治療内容や副作用についての説明時、治療の途中経過、治療変更時、治療の中断・中止の説明時、終の棲家の選択、あらゆる場面で患者さんとご家族に入念に説明する場を設けていました。

この医師の場合、ほぼ揉めることはありません。

まるで自分の家族に伝えるかのように丁寧に寄り添って説明しています。

例えば、治療の中止を告げるときに「抗がん剤が効かなくなったので、ホスピスに転院するように調整しましょう」と突然言われるとショックも受けるし腹も立つかもしれません。

私が憧れていた医師は、「今日は大切なお話をしないといけなくて、ご家族も来ていただいてありがとうございます。残念なお話なのが心苦しいんだけれど。今までつらい治療を沢山頑張ってもらいましたよね」と話を切り出していました。

まず、告知の場をセッティングさせてもらったことに感謝を伝えるのって斬新だなと思いました。

とても温かい配慮ある言葉で話を切り出される先生です。

そして、「前から話していたようにこれが最後の抗がん剤だったんです。効果がなくて、これ以上治療をするとかえって体を痛めつけてしまう。ここから先は、体のきつさをとる治療に専念することになります。」と続けていました。

何が素晴らしいかというと「前から話していたようにこれが最後の抗がん剤だった」という部分ですよね。

こまめに話していたからこそ言えるんですよね。

こう告げられた患者さんやご家族がどう反応したかというと「これが最後だとわかっていたので心の準備はしていました。先生、最後まで治療をしてくれてありがとうございました」と受け止めていました。

ある日突然、「実はこれが最後の抗がん剤でした。もう治療法はありません」と伝えられたらどうでしょう?

それは悲しみ、憎しみ、怒り、ショック・・・負の感情しか浮かびません。

患者さんやご家族の逆鱗に触れる医師の特徴としては、こまめに病状説明を設けなかったり、看護師を同席させなかったりする点が共通しています。

看護師が同席していれば、説明後の理解度を改めて確認していて、誤解があれば訂正したり改めて説明の場を設けるよう医師に提案できます。

少しの誤解でもすぐに解いておかないと信頼関係は一度崩れたらなかなか元には戻りませんから。

看護師としては、医師に同席したいことを伝えておくこと、医師と患者さん両者とコミュニケーションをとること、中立的な立場でいること、患者さんの様子をしっかり観察しておくことが大切です。

私が告知のときしていること

  • 患者への挨拶
    • 予定された病状説明の場合、患者に挨拶をかねて同席の可否を確認しておく
    • 患者に今の疑問や感じていることを尋ねてリストアップしておく
    • 医師と患者の精神状態、患者の疑問や不安な点を共有しておく
  • 患者・家族の反応を観察
    • 患者と家族の関係性にも注意する
    • 説明を理解できていそうか?
    • 精神状況はどうか?
    • 必要であればメモをとるよう伝える
  • 患者・家族の理解度を確認
    • 理解できているか知るため説明内容を振り返る
    • 誤った認識をしていないか本人の言葉で引き出す
  • サポートの紹介
    • がん相談支援センター、ピアサポートなど伝えておく
    • 自分の名前と所属部署を伝えておく(電話対応も可能だと添える)
    • 説明を受けたメンバー以外に支えになる家族がいるか確認する
  • 医師へのフィードバック
    • 患者・家族の理解度や告知後の反応を報告しておく
    • どの言葉で患者が誤解したのか、どの部分がわかりやすかったかも伝える
    • 自分が実施した告知後の対応について伝え、次回以降も同席したいと伝える

がん患者さんやご家族は、状況の変化とともに様々なつらい体験を繰り返します。

悪い知らせを伝えるのにも、環境の配慮や思いやりの心をもって接することが大切です。

SHAREについて知らなかった方の参考になればうれしいです。

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